4.K.ヤイリ K. YAIRI

 

OK−1(通称「オケーション」)(現在無し)

表面板・側板・背面板:檜?
指板:?
ネック:マホガニー
 
使用アルバム:「猫座のラグタイマー」(また、同人オムニバス・カセット・アルバム『シアン』への参加曲「ウェン・ペッ」で、打楽器として使用。)
 
 私は筋金入りの国産ギターファンだ。ことアコースティック・ギターに関する限り、私は国粋主義者かも知れない。ギターを購入時に選ぶポイントはいろいろあると思うが、別に音がいいからとか、値段が安いからなどの理由を無理に考えるまでもなく、その時々の状況での相性の良さというものが、一番大きな要因なのかも知れない。そういう意味では、ここに紹介するKヤイリのギターは、とてもアホな状況下での出会いだったに違いない。
 
 この当時4万円ほどのギターは、ボディーに本物のを使っている。ご丁寧に金属の輪ッパまで再現されていたが、湿度の違いによる桶本体の収縮のため、私の輪ッパは外れてしまった。外れたときは、あまりにギターの常識とかけ離れたその現象に、さすがに少しびびった。サウンドホールは可愛いハート型。このサウンドホールは一本ごとに異なり、トンボ型や菱形など様々な形があった。ヘッドには彫刻の飾りがついているが、いかにも張り付けたのがアリアリとわかるのである。もちろんこんなボディーでは音が思うように出ないので、申し訳程度にピックアップが搭載されている。このギターは、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったオベーション Ovation のヒットにひっかけた、Kヤイリの隠れたヒット商品である。廃品利用とかいろいろ言われそうだが、いいではないか。

 

 

 
 私は、このギターにはまった。はまりまくった。 機会さえあればあちこちに持っていった。とても軽い。だいたいソフトケースがである。ケースに入れて持ち歩く姿は、どう見たって剣道指南である。今でこそトラベルギターは「バックパッカー」とか「ギタレレ」とかいろんな種類が出ているが、当時気軽に持ち運びできるギターなどおもちゃの延長でしかなかった。これほど大まじめに、しかも楽器として本格的に作られたメーカー品の冗談は、今考えても驚異である。どうせ洒落るなら、ここまで徹底的に洒落たいものだ。
 
(2枚目の写真は、1990年、札幌ジャックインザボックス、夢和くんとのジョイント・ライブにて。)

 

 
 かなり前だが、ハンマーダルシマー奏者の Dave Neiman のコンサート終了時の交流会でもこれを持ち込んで、「ジョン・フェイみたいですね」と言われてしまったらしい。なんでジョン・フェイなんだ? また、路上で弾いたときは、「三味線ですか?」「バンジョーですよね?」などと通行人に面白がられた。情けない音さえ気にしなければ、ストリート・パフォーマンスには打ってつけである。なお、私はやっぱり音を気にするから使わない。むしろ、桶の裏側を叩くといい音がするので、打楽器にするのも選択肢の一つ。
 
 なお、Kヤイリにはこの他にも、女体をかたどったヤラシイ系ギター(バックがオシリの形をしているので、弾いてて変な気持ちになりそう)とか、この手のギターがいろいろあるらしい。決して、ひと頃のナガブチモデルみたいに、さして必然性もないのにF型ホールにしたカッコつけギターばかりがKヤイリの真髄ではないのだ。
 
 まじめなギターでも定評のある大メーカーなのに、一方でこうした偉ぶらない遊び心のあるKヤイリは、日本のメーカーとしては出色である。というか、世界でもこういうのはない。...いや、そういえばハワイあたりのメーカーで「洗っても大丈夫」と自信ありげに宣伝しているグラファイト製ギターとか、Thom Blesh の使用で有名な、裏表両方で弾けるリバーシブル・ギターとか、ウケねらいのギターは結構あったような... 世界は広い。
 
追記(2022-5-26) NEW!!2018年ごろ、来日ツアー中のDakota Dave Hullさんに差し上げました。ダコタさんは前年に我が家でこのギターを試奏して以来、入手できないかどうか行く先々で調べていたのですが、それならとお譲りした次第。本当に心から喜んでくださったのが私もうれしかったです。
 
 

CE−1(ナイロン弦ギター)

表面板:スプルース単板?
側板・背面板:ローズウッド?
指板:エボニー?
ネック:マホガニー?
 
使用アルバム:「オリオン」「歌箱」「Echoes From Otarunay Vol.2
 
 最新作「オリオン」で、私のソロ・アルバムとして初めてナイロン弦ギターを1曲だけ弾いているのだが、それがKヤイリのカッタウェイのエレアコ仕様ナイロン弦ギターである。
 エレアコ仕様なだけあってなかなか弾きやすいギター。だいたい、オタルナイ・チューニングのカポ7というとんでもないセッティングで弾いても、それほど違和感がないのだから大したものだ。
 バス、トレブル、ボリュームのコントローラーは側板上部の埋め込み式で、押すと回せなくなるようになっている。誤動作を防ぐための工夫は助かるが、もともとほとんど使わないのだから私にとってはあまり意味がない。
 
 「またギター買ったのか」とか言われそうだが、このギターは実は数年前に他界した父の形見の一つである。父のギターには他に外国の船員さんから譲ってもらったという古びたやつもあり、私が子供の頃は結構遊ばせてもらった。しかしそれがかなりくたびれてきたので、私の勧めもあって父が新たにこのギターを買ったのである。父はこのギターを充分弾くこともなくあの世に行ってしまったので、せめて少しでも活用させていただこうと思った次第である。
 

 

 

レディーバード(現在は母のギター)

表面板:スプルース単板
側板・背面板:メイプル
指板・ブリッジ:パドック
ネック:マホガニー
 
(材質に関して、抹茶さんのご教授を頂きました。感謝。しかし、「パドック」って競馬の下見所みたいな名前...)
 
 小樽運河に始まった観光客さんとの不思議な縁から、めぐりめぐって2002年1月29日の名古屋ライブ(ウエスト・ダーツ・クラブ)の開始前に、Kヤイリの方とお会いできる機会があった。お仕事のため、その方に私の生演奏を聴いていただく時間がなくて残念だったが、その際とても可愛いギターを譲っていただいた。それがこのギター。
 
 先にご紹介した「オケーション」もそうだが、いわゆるポータブル・ギターで、ウクレレをちょっと大きくしたような形。名前から言っても、女性でも気軽に弾けるというポリシーの元に作られたのだろう。ヘッドにはちっちゃなてんとう虫、意外に派手なサンバーストのボディー、まるで浴衣のようなソフトケースなど、その可愛いルックスにまずセンスを感じるが、何と言ってもこの小さなボディーからとは思えないほど良い音がする。何と表面板のスプルースは単板らしい。
 
 私が専門としているフィンガースタイルではさすがにショボイかも知れないが、もっと気軽に、田端義男風の弾き語りスタイルならうってつけである。実際、その後札幌のライブでは、何度か弾き語りコーナー用のサブ・ギターとして活躍してくれた。意外とステージ栄えもするので、プロも持っておいて損の無いギターであると思う。
 現在、マンドリンをたしなむ私の母がとても気に入ってしまい、手放してくれないのでしぶしぶ譲り、このギターは実家に行ってしまっている。また、私も参加しているMLの、ある女性メンバーの方もレディーバード・ユーザーである。う〜む、やはり女性に大人気だ。

 

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