1.ヤマハ Yamaha

 ヤマハ。それは私のギター人生を彩る、もっとも象徴的なギター・メーカーとして、筆頭にあげられるものです。一番最初に買ったギターも、『クライマックス・ラグ』の多くの曲を録音したギターも、全てヤマハです。

 これは一般論ですが、ヤマハのギターは、慣れると日本人にはとても弾きやすいものです。多くのモデルでは、それほど深く共鳴するわけでもなく、音の出方も早くて、コントロールしやすいと思います。昔のFGなどはネックが太くてプレイヤビリティーがいまいちだったと思いますが、現在はネックが細く、また代々ヤマハギターの指板は狭く設定されているので(近年のモデルチェンジ後はその限りではありませんが)、指の短さによる不便をそれほど感じないで済みます。私はそれほど指が長い方ではないので、このことは特に有利に感じています。

 また、私がいわゆる「外国産の高いギター」を意図的に避けているのは、プレイスタイルの相性もさることながら、外で気易く弾けるかどうかを基準にしているという理由もあります。常にベストコンディションでないと良い音が鳴ってくれないのでは困るのです。外は雨の日も霧の日もあり、5時間弾けば汗もにじみ、たまにガツンと落としたりもしたり、子供がよだれを垂らしたり、その他過酷な条件が重なります。その点、コンディションに左右されずに良い音を出せるタフなギターであれば、なんの気兼ねもなく演奏に専念できます。私の今までのギター人生においては、単板・合板問わず、ヤマハにそのようなモデルが多いと感じます。

 どんないい音の出るギターであっても、プレイヤーがそれを充分に弾きこなせなければ無用の長物です。外国製のギターをありがたがる時代は未だに続いているようですが(そして音も確かに良いと思うのですが)、果たして自分にそのギターが弾きこなせるのかを、冷静になってチェックしてみると、意外に合わない部分・無理に自分から合わせている部分は多いのではないでしょうか。

 しかし、実は高い海外のギターをなかなか手に入れられない人のひがみだったり...するかも知れませんね。

(写真中央はFG−500、左はFG−140。)

 

FG−250(ベージュ・ラベル?)(現在無し)

表面板:スプルース合板
側板・背面板:パリサンドル合板?
指板:パリサンドル
ネック:ナトー

使用アルバム:なし

 私が高校2年の頃、一番最初に買ったギターは、もっとも安い部類に入る2万5千円のFG−250だったと思います。もちろん全て合板のギターです。今思えば2万円そこそこなんて、はした金かも知れませんが、それでも当時の私にとっては大金でした。親に借金して、学校まで片道30分強の道のりのバス代を2年ほど歩いて稼ぎ、穴埋めに当てました。今思えば、とても慎ましやかな金銭感覚でした。このギターは、大学入学当時にマーチンD−18STを無理して手に入れるまでは、私の唯一のギターでした。

 安い割に良質な作りは、ヤマハFGシリーズの伝統です。今でこそ70年代当時のFGを「オールド・ヤマハ」としてプロが再評価するという現象が起きていますが、ギター初心者(ことによると全ての人)にとっては「いかに安くそこそこのものを手に入れるか」が至上命題なのです。FGは、そういう点で見ても日本の誇る名器だと思います。

 

S−51(1980年製、指板裏の力木に#001015/皮ラベルに#05070)

表面板:スプルース単板
側板・背面板:パリサンドル単板
指板:パリサンドル
ネック:マホガニー

使用アルバム:「ラグタイム・ギター」「私の小樽」「クライマックス・ラグ」「オリオン」「夏の終り」「ライブ・ラギング」「赤岩組曲」「ライブ・ラギング2」「プレイズ・ロベルト・クレメンテ」「Echoes From Otarunay Vol.1」「Echoes From Otarunay Vol.2」「アコースティック・ギター/ソロ(オムニバス)」「メイプル・リーフ・ラグ(オムニバス)」「君は一人じゃない(北海少年院歌のオムニバス)」

 最初のヤマハ(FG−250)から時は流れ、私が再びヤマハを手にすることになったのは、東京での会社員時代でした。
 もう今では生産していませんが、昔はSシリーズという、ヤマハの呼称では「セミ・ジャンボ」タイプのギターがありました。私は最初、このSシリーズは、マーチンでいえばトリプルオーにあたるのかと思っていましたが、実はスケールの長さがドレッド並みの651ミリだったり、胴厚も比較的深かったりと、どちらかと言えばOMに近い形状です。

 この形は、ヤマハのギターの歴史の中では意外にも特異な部類に入るようです。Sシリーズがカタログから消えた後、一時LEXやLSという型番に継承されていましたが、2008年時点の商品ではこのボディータイプのものは見当たりません。おそらく、LJ(ミディアム・ジャンボ)がその位置を奪っているからでしょう。

 私はこのSシリーズの最上位機種、S−51を幸運にも中古で手に入れました(1992年春に購入)。ヤマハのホームページによると、そもそもS−51は、「L−51」が進化したものだということです。L−51とは、カスタム四天王と呼ばれた4本の最高級ギターの一つで、左と右の形が違うという変わったギターでした(私は実物を試奏したことがあります)。高音は小さい左側のボディー、低音は大きい右側のボディーというイメージで、音のバランスに配慮してデザインされたというものでした。

 S−51の形はもちろん左右対称ですが、根底にはそのような音量と音質のバランスを意識したギターだったことに違いありません。これはやはり、OMの存在意義とダブってきます。

 このギターが珍しいのは、ヤマハの当時のカスタム・ギターの多くが3ピースバックだったのに対して、最初から2ピースバックになっている点。音はかなり太い印象で、豊かなボリュームがあります。中堅クラシック・ギターのようにどことなく暖かい音がするのも、このギターの特徴と言えるでしょう。

(写真、小樽運河でS−51を弾く。この他、「写真の部屋」などにもS−51がいっぱい写っているのでご参照を。)

 このギターこそ、長年の路上演奏やライブ、幾多の録音でも使ってきた、私の人生におけるメイン・ギターです。ハイランダーのピックアップ(IP−1)が後付で搭載されています。もう使い込んでボロボロ、特に指板の減り方はひどく、コンサートが終わった後に「こんなになるまで弾き続けたんですよ!」とお客さんに自慢できるほどです。

 もうくたびれたろうと思って、2003年ごろから路上ではあまり弾かないことにしていましたが、やはりこのギターへの愛着は捨てられず、結局今でもちょくちょく運河を含むあらゆる場面でのメインギターとして利用しています。

 

LL−45D(1986年製、#J-6035)(現在無し)

表面板:エゾ松単板
側板・背面板:ハカランダ単板(ブラジル近隣諸国の「ニュー・ハカランダ」らしい)の3ピース
指板:パリサンドル
ネック:マホガニー
 

使用アルバム:「海猫飛翔曲」「歌棄の歌」「私の小樽」「オリオン」「赤岩組曲」「ライブ・ラギング2」「太陽の音楽」「Echoes From Otarunay Vol.1」「Echoes From Otarunay Vol.2」「ボーン・イン・ズィ・エアー(オムニバス)」「ロング・ウェイ・トゥー・ゴー(オムニバス)

 このギターは、S−51からしばらくの後(1992年夏)、やはり中古で買いました。S−51でヤマハのカスタム・ギターの素晴らしさを認識したので、つい手が伸びたのでした。当時の価格はどちらも20万円代後半くらいでしたが、今ではもっと高騰しているようです。

 LL−45Dは、当時の最高機種LL−55Dの簡易装飾バージョンと言えるものです。他の多くのカスタムLLと同じく3ピースバック。私は正直言って2ピースバックの方が好みなのですが、私のギターの中では珍しいことに、柾目のハカランダ単板が使われています。やはり木目は美しいものです。ただ、接合部分がうまく合わずに波打っているのがご愛敬...。
 なお、ハカランダのことを通ぶって「ハカ」などと言うのは、何でも略する日本人の悪い癖だと思います。

 一応ドレッドノートタイプにも関わらず、より小さいタイプのS−51よりも音が若干細く感じられるのが、少し奇妙に感じるところです。この繊細な音こそ、当時のLLの真骨頂だったと私は思います。同時期に比較で試奏したことのあるヤマハのカスタムギターの中で、これが一番いい響きだったことも覚えています。

 私にとってこのギターの一番の利点は、音の立ち上がりが素早くて撥弦のコントロールがしやすいこと。弦高が低めに調整されていたのでプレイヤビリティーもよく、録音に使う頻度はフィールズやS−51に次いで多かったのです。過去の例では、左手運指の特に難しい曲の録音によく使い、その都度いいレスポンスで応えてくれた、頼りがいのあるギターでした。

追記[2008-10-11]: NEW!!
 ここにも記したとおり、私にとっては生涯の愛器・フィールズやS−51に次ぐ、いわば自分の代名詞的なギターの一つでしたが、経済的な理由と、他に弾きたいギターが多くなってきたため、自分もこのギターも新天地を見つけていければ、という気持ちで手放すことにしました。
 長年弾いてきたギターでしたので、感慨無量です。
 以下に、写真を載せておきます。

 

LL−25−12(1980年代後半?、#107150)

表面板:エゾ松単板
側板・背面板:パリサンドル単板
指板:パリサンドル
ネック:マホガニー
 
使用アルバム:「月影行進曲」「ラグタイム・ギター」「太陽の音楽」「Echoes From Otarunay Vol.1」「歌ばっか
 
 
 私が現在持っている唯一の12弦ギターもヤマハです(なお、学生の頃は、キャッツアイの12弦を持っていました)。このギターは台湾製ですが、材料や仕上げに至るまで、かなり丁寧に作られている印象があります。おそらく会社員時代2年目くらいに買ったと思いますが、あまりよく覚えていません。

 最初に使ったのはカセットアルバム『月影行進曲』(1990)のタイトル曲、次が初めてのCD『ラグタイム・ギター』(1992)の「ブレイクスルー・チューン」でしたが、その二曲に使って以来、ずいぶんご無沙汰していました。久しぶりに持ったのは何と15年ぶり、やっと『太陽の音楽』(2007)の録音で二曲に使用しました。
 実は最初12弦ギターを使うつもりはなかったのですが、いつも弦を買いに行っている楽器店の方から、「いつもお世話になってます」と、思いがけず12弦ギターの弦を譲っていただいたため、急遽使うことになったのでした。久しぶりの12弦、心からその音に酔いしれ、楽しい録音になりました。
 もちろん、これからも使っていきたいギターです。

 

FG−140(赤ラベル、1967-1972年、ナンバーはプリアンプの電池カバーが邪魔で見えない)(現在無し)

表面板:スプルース合板
側板・背面板:ラワン合板
指板:ローズウッド
ネック:ナトー
 
使用アルバム:「ライブ・ラギング2」「歌箱
 
 2000年、小樽の花園町に、オールド・ギター・ショップ「Tone Poem」が開店。ずっと前から小樽の楽器屋さんの少なさには不満があったので、もう夢心地でおじゃますると、なんときれいな店内。多くの名器と共に飾られていた4本のグッド・サウンド・ヤマハ! とても素晴らしい店でした。その中で、今まで弾いたヤマハのギターの中で最もブライトで音に艶があるギターを紹介され、即決で買ってしまいました。それがこのギターです。
 このギターを買った後、帰り際に一匹長屋のマスター下村さんにばったり会い、「浜田君、儲かってるんだねえ」と言われてしまいました。いや、そうじゃないんですと言うのもなんなので「いやあ」と余裕を見せたのです。
 
 音に若干安定感がなかったり、15フレット目がビビったりと欠点はありましたが、Tone Poem の堺さんに調整してもらって何の不満もなくなりました。ある意味S−51よりも優れた早くて明るい鳴りは、とても合板ギターとは思えません。ネックは昔のヤマハの特長通り太いが、弦高を抑えているので比較的弾きやすいものです。まさに赤ラベル・音叉マーク・ビンテージヤマハの本領発揮、ラグタイム・ブルースにもピッタリです。
 
 ただし、何と言ってもやっぱり合板ギターなので、上位機種に比べればバランスはそんなによくありません。右手のタッチによるトーンの微妙な違いもなかなか出てくれません。このへんは一長一短です。これにハイランダーのピックアップを搭載して、小樽運河でも弾いていた時期があったが、今はどちらかというとスタンダード・チューニングでの歌ものバッキングや練習用のギターになっています。
 
 その後、Tone Poem は2003年に入船町側に引っ越しましたが、いいお店の雰囲気は健在です。掘り出し物のギターも相変わらずたくさんあります。ギターファンはチェックしておいて損はありません。
 
追記(2022-5-26) NEW!!2016年ごろに残念ながら手放しました(次のオーナーは運河で弾き語りをしていた太田コタローくん)。私が最後まで持っていたFG赤ラベルでした。

 

FG−500(赤ラベル、1969-1972年、#1072820)(現在無し)

表面板:スプルース単板
側板:ハカランダ合板
背面板:ハカランダ単板
指板:黒檀
ネック:マホガニー

使用アルバム:「私の小樽」「オリオン」「ライブ・ラギング

 
(写真左、FG−500を弾く私。右、FG−500のサウンドホール付近。剥がされたピックガード跡が痛々しい。)
 
 このギターは、まだ東京にいた頃、京都の中古楽器屋さんで手に入れました。もちろん赤ラベル、ヘッドは音叉マークだが、先細りではありません。入手当初は表面板の一部が割れていました。ピックガードはその表面板の割れを隠すために、元の持ち主が付け替えたものらしかったので[注:これは後に誤解だとわかりました。分厚いセルロイド製のピックガードはオリジナルのものでした]、買ってしばらくしてから取ってしまいました。大きなボディーと渋めの落ち着いたトーンが特徴で、私は歌もののバッキングなどにこのギターを使っていました。
 CD「オリオン」の比較的古い録音「ブラインド・ジョー・デスの伝説の再調査」「浮気の発覚」にも、このFG−500が使われています。前者は、タッチの軽いギターでヘビーな曲をやることにより、ミスマッチの不気味な感じが出ています。ラテン風の後者は、まさにこのギターに合った曲ではないでしょうか。
 
 
追記[2007-5-22]:
 ギターが増えてきたため、残念ながらこのギターは、2007年に手放しました。なかなか希少価値のあるギターということもあり、希望者は多かったと思うのですが、知り合いにお譲りすることができてよかったです。なお、剥がれたピックガードとひび割れは、2005年ごろ小樽の楽器店トーンポエムに修理して付けていただきました(わざわざヤマハのオリジナルの形に整形していただきました)。このため、音も引き締まりました。
 以下に、手放す直前の記念写真を載せておきます。
 

 

FG−401WB(オレンジ・ラベル、1980年製?、#00109)(現在無し)

表面板:エゾ松合板
側板・背面板:パリサンドル合板
指板:パリサンドル
ネック:ナトー

使用アルバム:なし

 2003年、3年ぶりに小樽のギター店のトーンポエムで購入したギターは、もういい加減にしろと言われそうですがやっぱりヤマハ。
 
 ヤマハFG(オレンジラベル)らしからぬ、ギブソン風の外観。ブリッジがエレキ・ギターのように可変式になっているところも特徴の一つ。音は、オール合板のギターとは信じられないくらい、野太くてよく鳴っています。合板ギターにありがちな音の不安定感もなく、FGよりもむしろLL(当時はL)に近い、ほどほどに高級感のある作りです。
 
 私は当初「偽ハミングバード」または「偽DOVE」だと思っていましたが、分厚いピックガードの装飾は菊の花(ゲイリー・デイビスのSJ−200風)で、小鳥さんではないし、材質やピックガードの形状なども微妙に違います。これぞ男のロマン。超高級単板手工ギターの価値しか認めないエクスペンシブな嗜好の人には、こんな珍ギターを巡る楽しみは、「あっそう」と鼻であしらわれてしまうかも知れません。
 
 フィンガースタイル・ギター・ソロイストで、こういうおしゃれなロック・スター風のギターをメインにしている人は寡聞にして知らないので(ただ、レオ・ウィンキャンプ・ジュニアがこういうギターを持っていたかも)、ヘソ曲がりの私はこのギターに大変入れ込んでいました。
 B-BANDのピックアップを付けて、小樽運河で実際にメイン・ギターにしていた時期もありました。足台を使って、クラシカルなスタイルで弾くと、ビジュアルとしてかなり違和感あり...

 

追記[2007-5-22]:
 ギターが増えてきたため、残念ながらこのギターは、2007年に友人のギタリストにお譲りしました。そのギタリストというのは...一応秘密にしておきましょうかね。
 以下に、手放す直前の記念写真を載せておきます。

 

 

FG−170(グリーン・ラベル)(現在無し)

表面板:スプルース合板
側板・背面板:マホガニー合板
指板:ローズウッド
ネック:A.マホガニー
 
使用アルバム:なし
 

 会社員時代の一時期(1993年頃?)、中古楽器店巡りで手に入れた一台。ネックが太すぎて弾きづらかったのですが、とてもよく鳴っていた記憶があります。残念ながら、このギターはずいぶん前に手放してしまいました。しかし、グリーンラベルもオレンジラベルも、良いものは赤ラベルを凌駕するほどの出来という場合も少なくないので(もちろん当たり外れはあるでしょうが)、ヤマハファンはぜひチェックしてみてください。

 

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