浜田隆史詩集
 さっき ちょっと見た I took a glance just before (2008−)
(2008.10.18更新)

 

  言葉と世界

諸君らに聞きたいのだが
カンパリソーダという言葉を知っているかね

私は知っているが
飲みたいと思ったが
どんなものか飲んだことがない
あるのだという
そのものを見たこともない
いくらするのかもわからない

つまり ないわけだ

私は外を見た
未だに炭焼きのにおいがした
水っぽい雪の解け方を見た
歩きづらい堕落の里を見た
しょんぼりした枝の枯れ方を見た
この中に私の知らない言葉が山ほどある
だが見ているのに知らないだけだ

つまり あるわけだ

ここで諸君らに言いたいのは
つまり私たちはバカだということだ
いわゆるカンパリバカだ

よこしまな言葉で知ったこの世界
そしてちょっと見てみたこの世界
こんなに違うとは思わなんだ

詩人はカンパリバカであってはならない
(2008・1・30)

 

  温かい言葉

諸君らに聞きたいのだが
褒められたことがあるかね

わざわざここに来てくれて
黙って我が主張を聴いてくれた人なら
そりゃ褒めるだろうさ
それは温度とは別の世界で
心の傾きでもない話だ

つまり 空虚である

なぜならこの心の足は
どこにも着いていないのだ
力を入れて踏ん張ろうにも
最初から踏み台が隠されていて
引力すら感じる場所がない
温度とは別の国
心というより会話の手続きである

つまり 真実の外である

よこしまな言葉によって温まる
あなたの心 ここにあらざり
そんなのわかってると思っていたが

あの詩人は安いカンパリでいい気になっている
(2008・2・2)

 

  吹雪になってきた

出たときはそうでもなかったが
歩いたら空気が真っ白で
ぺったりと壁のように張り付いてきた

この吹雪は何かの罰のように
世界をいじめに来た

何もやましいことはない
私たちはただ貧しいだけで
不真面目ではない
だからここにあるものなら
吹雪でも食べたいくらい
真正面から歩く

でも少しつらいから
風下に方向を変えて
つらつらと流されていたら
いつの間にか電気屋さんに着いていた

電球の熱で温まって
店を出たら
これまたバカにしているのか
空気が真っ青になって
月面のように寒くなっていた
マリンスノーのように沈んでいた

おい 月と深海には
用はないぜ
私が歩くのは
古い小樽の町並みに違いない
(2008・2・2)

 

  月の歌

赤レンガを踏み台にして
蛍光がまず見えて
それからよじ登るように月が
扁平の月が
私の背後に現れた
かまわず かまわないふりをして
道行く人には無視されているのに
愛想笑いして
でも気になって後ろをちょっと見た
おいおい
もう飛び出した
間抜けな屋根を後にして
月は自らを神にした
周りの空間は置いてけぼり
どんな光もかなわない
ものすごい力を
いつもの通り地味に発散している
私が振り返るたび
月はどんどん高い位置から
神の歌を歌っている
私が帰る時間になって
月を目指して歩いて
つい忘れて
でも家に着いてみると
ドアに月の光が付着していた
私は見られている
私はどこに行っても神に見られている
寂しくない
一人じゃない
流行り歌より
むなしい言葉より
この月明かりが私を慰めた
(2008・8・18)

 

  ただ食べる NEW!!

胸が苦しくなって
呼吸するように食べた
音が言葉にならない
気持ちに力が入らない
光が風景にならない
何てもどかしいの
病人はこんな気持ちに違いない
私もわずらって
気にしていたら治らない
思いを抱えている
(2008・10・18)

 

 

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