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★ アンイージー・リスニング〜アナーキー・ベスト Uneasy Listening/チャンバワンバ Chumbawamba(東芝EMI、1999年) NEW!!

 結論から言うと、私、久々に本物のロックを聞きました。今世紀最後の大衆芸能大賞をあげたいような気分にさせられる、名前からしてとてもイカした(イカれた?)バンド、イギリスのチャンバワンバをご紹介いたします。
 といっても、私はついこの間このベスト盤CDを買ったばかりで、彼ら+彼女ら(男女混成の8人組らしい)の事をほとんど知りません。だいたい、なぜこれに注目したかというと、ジャケットの人がアコースティック・ギターをもって座っているブラジル系のおっさんみたいだったので、「これはギター・ソロか弾き語りのCDなのかな?」という感じで見てしまったからなのです。こんな買い方をする人間は、ひょっとしたら珍しかったかも知れません。

 日本語の解説がある割には、このグループの全体像が全然見えてこないのですが、音楽的にはまず反体制パンク、ラップ、ファンク、そして意外にもアバを思わせる品行方正なポップスなどの要素が渾然一体で、キンクスやXTCにも通じる英国ロック風のセンスも感じられます。しかし、何と言っても特筆すべきはその過激な歌詞。あらゆる社会的な不合理、特に政治的な不満が時にはストレートに、時には皮肉たっぷりに歌われています。
 だいたい2曲目から「Mouthful of shit(日本語タイトルは「嘘つきポリティシャン」なんて、詐欺だ!)」。ポップミュージックとしてきちんと完成されたアレンジが、逆に変幻自在に聞き手をだましています。例えば、女性ボーカルでの優雅なメロディーで「この嘘つき野郎」「オシッコ」とか言っているという、アンバランスさに大いに笑えてしまいます。しかし、日本の大衆のように、政治家の嘘はもう手に負えないとサジを投げるのではなく、しょうもない連中にマジ切れして何とか怒らせようとしている様子が、逆の意味で健全に聞こえます。

 以下、面白い曲のタイトルを片っ端から対訳して挙げると、未だに世界的にテロ事件が続く中では全然しゃれになってない「時限爆弾」、第一次大戦中の前線兵士作による風刺歌「古びた有刺鉄線にぶら下がっている」、金持ちを皮肉っているのはわかるがシングルとして発表したというのがすごい「お前らの小汚ねえ家ときたらゲーッ」(しかもこのゲーッは女性ボーカル)、喜劇役者のレニー・ブルースに捧げられた曲で、ブルースが投獄される理由となった禁句「To come」を品詞分類の講釈付きでしつこく復唱する「ビッグ・マウスの逆襲」、ゲイへの偏見を打破するために憲法第29条に反対しようと呼びかける「第29条を破り捨てろ!」などなど、英語やイギリスの社会情勢が分かったらもっと楽しめること請け合いのすごい歌ばっかりなのです。でも、曲の邦題くらいきちんと付けて欲しいな(レコード会社のセンスの問題か)。
 それにしても、恥や道徳、ポップ・スター、メディア、権威主義に真っ向から対立しながら大衆を惹きつける、この捨て身の楽しさは一体何なのでしょう。ライナーノーツもかなりひねくれていて、真面目なのか冗談なのか、さらにこのアルバムが本当に過去のアルバムのベスト盤なのかという事まで、何だかわからなくなってしまうところが魅力的です。

 常識の壁を打ち破る歌詞のすごさだけではなく、時にはストレート、時にはフォーキー、時にはジャジーとその音楽的芸風も細かくて、単にサウンドだけを聴いても充分そのエネルギーとノリを感じることができるでしょう。日本盤の帯のうたい文句「どんちゃん大ヒット」(彼らのベスト・ヒット曲「タブサンピング」のコピー)などお気楽すぎで、彼らを聞いたことのない人を誤解させるだけかも。単にどんちゃん騒ぎをしているのではない、筋の通ったメッセージがあるし、実はそうした歌詞の魅力を最大限に生かすため、アレンジも緻密に計算されているのです。

 私のようなチャンバワンバ初体験組のおじさんより、むしろ若い人の方が彼らについてご存じかも知れません。何か、こういうかっこいい音楽が流行るのはうれしいなあ。

 

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