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Juanjo Dominguez plays Astor Piazzolla/ファンホ・ドミンゲス(ラティーナ、MUSAS5001、2002年)
Music of Astor Piazzolla interpreted by Iizumi Masahiro Trio+1(BORDONA MA-0401、1999年)

 タンゴ界の異端児、アストル・ピアソラ(1921-1992)の音楽は、過去日本でも折に触れて紹介されてきましたが、私は最近縁があって、ギターによる二種のピアソラ・アルバムを聴きました。いつ聴いても、どんな形でも、いいものはいいと再認識しました。何だか、聴いているだけで心が豊かになっていくような気がするのです。

 一つは、アルゼンチンの天才ギタリスト、ファンホ・ドミンゲスの最新作「Juanjo Dominguez plays Astor Piazzolla」(ラティーナ、MUSAS5001、2002年)。ファンホのギターについては、私が言葉をいくら労したところで、その素晴らしさは伝えられません。完璧なギタリストとは、まず一番に彼を指す言葉だと私は思います
 私の愛聴盤で、前作の「わたしの好きなタンゴ」(ビクター、VICP61246、2001年)は基本的にはギターソロでしたが、最新作はソロよりも多重録音による二〜三重奏の形が多いです。これはすごい。ピアソラの表現力豊かな音世界が、まさに完璧にギターのみで築き上げています。フォルクローレにも精通しているファンホの手に掛かると、今まではやや鋭角的に感じていたピアソラ音楽の演奏に、ある種の牧歌的な丸みというか、余裕すら感じてしまいます。
 ピアソラの音楽は、保守的なタンゴファンではなくジャズ・ファンにアピールされることが多いように思うのですが、この暖かいギターの響きと情感溢れる演奏はまさしく中南米音楽、いや全てのギター音楽愛好者の耳を満足させるに違いありません。必聴盤です。

 もう一つは、ファンホのアルバムで含蓄ある解説文を書かれていた、ギタリストの飯泉昌宏さんのアルバム「Music of Astor Piazzolla interpreted by Iizumi Masahiro Trio+1」(BORDONA MA-0401、1999年)です。実は、以前私の東京でのライブに飯泉さんがありがたくも見にいらっしゃいました。何と私と同い年とのことで、大いに音楽談義が盛り上がりました。その縁で私はこのCDを手に入れたのです。
 タイトルからおわかりの通り、基本的に飯泉さんのギター、渡辺英一さんのエレキ・ギター、佐野真司さんのドラムスというトリオでの演奏を収めていて、これがとびきりスリリングです。先のファンホの多重録音により構築された音には、全く破綻が見られない一方(それはそれでよいのですが)、トリオ演奏のどんどん荒々しく高揚していく様は、やはり「集団即興的な表現」(ライナーより)ならではの良さがあります。
 日本にも飯泉さんのような優れたタンゴ・ギタリストがいると言うことを、多くのギター・ファンに知っていただきたいと思います。
http://homepage3.nifty.com/bordona/index.html

 アプローチが違うだけで、同じ作曲者の曲もかなり異なる印象を持ち得るということ、そしてよい音楽にはスタイルの違いを乗り越えた懐の深さがあるということ、こうした音楽の醍醐味を、私はこの二枚のピアソラ盤から感じ取りました。

 

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