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★ メキシコのマリンバ 〜太陽の国のリズム/マリンバ・ナンダヤパ(キングレコード KICW 1031、1997年)

 たまに札幌に行った帰りに、何か楽しいCDはないかなと探してみると、どうも民族音楽や中南米音楽の棚に行き着いてしまう私。別に知識人ぶるつもりはなく、今までロックだって歌謡曲だって手当たり次第に聞いてきたつもりなのですが、私の心の奥に本当に根付いているものは、特にアメリカ大陸の楽しいリズムと切ないメロディーへのあこがれだと思うのです。
 今回ご紹介するアルバムは、まさにタイトル通り、メキシコのマリンバ・アンサンブルを心ゆくまで堪能できるCDです。演奏するグループ「マリンバ・ナンダヤパ」(マリンバ?何だや?ではない)は、セフィーノ・ナンダヤパ率いる5人組のマリンバ合奏団で、父親と息子たちという、いわゆるファミリー・バンドです。ライナーノーツによると、もともとメキシコ南部に伝えられてきた民族楽器のマリンバを、100年ほど前にセフィーノの父がクラシックまで演奏できる楽器として改良したのだそうです。

 ここでのマリンバは、かなりクラシックに親近感のある、メリー・ゴーラウンドのような音楽といえばいいでしょうか。まず注目すべきは、メキシコのマリンバの個性的な響きです。世間一般に言う「マリンバ」から何となく想像される野性的な連弾とは、かなり趣を変えています。まるでオルガンのような、シンセサイザーのような、シロフォン(木琴)とも似ているようで違ったり、とにかく不思議で上品な響きなのです。私は、その微妙な揺れのある暖かい音色に、とても感動しました。
 演奏曲は、メキシコの州であるチアパス(マリンバの生まれ故郷だそうです)、タバスコ、オアハカなどの伝承曲を中心に構成されています。この中では「波濤を越えて」(フベンティーノ・ロペス作)が一番有名ですが、素人耳で聞くと全体的にワルツやポルカのイメージが強く、バリバリのラテンというよりかなり西洋音楽風に感じました。これはなかなか意表を突かれると共に、かえって興味深く聴くことができました。いわゆる「泥臭い民族音楽」ではなく、昔なりにソフィスティケイトされた踊りの音楽として、多くの人が楽しめるのではないかと思います。また、日本録音で、そのしっかりした臨場感のある音は、オーディオ・テスト用としても十分だと思います。

 南米音楽を聞くと、どうしてもラグタイムと比較せずにはいられないのですが、ここでラグタイムでよく使われるシンコペーションの型を見出すことは、私にはできませんでした。しかしメドレーが多く、異なる楽曲の自由な接合に、初期のラグタイムとの共通点を見ることも一応はできるようです。
 ただ一聴した感じでは、例えばイタリアのマンドリン・アンサンブルのような感じでも聴けました。たとえが突飛かもしれませんが、我が小樽が誇るべき現役マンドリン・アンサンブルの「サロン・マンドリーノ」(実は私の母も在籍しています)がラテンの曲を編曲して演奏するときのような、実にのどかな雰囲気が、このマリンバ・ナンダヤパにも感じられるのです。

 色々な音楽のミックス、その異なる結果と地域性を勉強するにつけ、アメリカ大陸の文化は、その必ずしもバラ色とは限らない複雑な歴史はとりあえず置いても、何と奥が深いのだろうと改めて感じました。

 

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