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Panpipe Vol.2 / Andreas Gmelin(独盤 Record Partner RP12503、199?年)

 これは「投げ銭随筆」に入れようか悩みましたが、こちらに記すことにします。
 この珍しいドイツのCDは、これまた珍しいルーマニアのパンパイプ奏者の、クラシック音楽作品集です。
 アンドレアスさんは、今年の夏、ちょうど地元小樽のお祭り「潮まつり」の頃にふらりと運河に訪れて、カラオケ付きのストリートミュージックでデモ演奏をしながら、CDやカセットを売っていました。私は今までいろいろなミュージシャンが運河で演奏しているのを見ましたが、その印象では最初「ケーナみたいな音だな」「あれ、サンポーニャかな?」と南米フォルクローレ音楽のように聞いていました。ご承知の通り、フォルクローレのストリートミュージックは、近年特に珍しくないくらい、いろんな人がやっています。しかし、どうもそういうなじみの音楽とは少し違うようなのです。

 私はこのパンパイプという楽器は詳しくないのですが、見た目はまさにサンポーニャ(長短の木管を並べて束ねた、指穴のないフルートのようなもの)です。しかし半音が出せる、つまり西洋12音階の全てを出すことができるのです。しかも、かなり高い音が出せるようになっているようです。よって、フォルクローレだけでなく、クラシックの名曲メロディーも難なくこなしてしまうというわけです。まだ若そうな人でしたが、たった一人でカラオケ伴奏に乗って奏でる音色は美しく、その演奏は巧みで、思わず引き込まれてしまいました。そうこうしているうちに買ったのが、このCDなのです。

 内容的にはモーツァルト、バッハ、ヘンデルなどのクラシックが多く、そのきれいで心地よい音世界を堪能しました。よくもこれだけ細かい装飾音を含むメロディーを、こんな簡単な構造の管楽器で出せるものだと、その名人芸に心酔しました。南米と西洋のフレイバーが入り交じったような、不思議な感覚なのです。癒し系と名曲の相性はよく、そういう目的で聞いても充分楽しめるものだと思います。
 アンサンブル時の録音バランスがパンパイプに寄り過ぎの時もあり、バックの音圧が若干控えめなのが少し気になりましたが、素晴らしい演奏の前ではささいなことです。なお個人的に注目したのは、数曲のルーマニアとチェコの民謡で、初めて接する音楽に神秘な力と新鮮な躍動を感じました。

 彼のライブ時の舞台装置(アンプ、コンパクト・マイク、南米などの風景を捉えた大きな写真のパネル、演奏者紹介の看板など)は大がかりで、とても気合いが入っていました。大道芸の一種であるストリートミュージックの基本に則った、素晴らしいパフォーマンスでした。思えば、私はそこまで気合いを入れてなくて、ディスプレイといえば、ギターケースの上に、パソコン打ち出しの自己紹介文などを張り付けているだけです。彼のように派手にしないと、お客は関心を持ってくれないのかも知れません(毎日そんなに大仰にしていたら、同業者からクレームがつきそうですが...)。
 少しだけ片言の英語で話をしましたが、どうやら新しいCDを作るための資金づくりをするために演奏しているらしいのです。私も人ごとではありませんね。でも、昼間の食事はお寿司を食べたと言っていたので、儲かったみたい。

 彼は潮まつり期間中の2〜3日で小樽運河を離れましたが、その舞台装置を撤収してコンパクトにまとめても大荷物。それを自転車の荷台にまとめて押して帰る姿、私はそのすてきな同業者に心から拍手を送りました。私も、アンプを自分で担げなくなるくらい年を取ったら、バイクでも買おうかと思います。
 異国のストリートミュージシャンに幸あれ。

 

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