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Paniel / Sebastiao Tapajos(Visom CGC 28.629.780/0001-52、1986年)

 ちょいとギタリストが続きます。
 ブラジルと言えばサッカーとギターの国。ブラジリアン・ギタリストと言えば、バーデン・パウエル、ローリンド・アルメイダ、ルイス・ボンファ、トッキーニョ、カルロス・バルボサ・リマなどそうそうたるメンツが思い浮かぶのですが、その中でも私が大好きなギタリストは、やはりセバスチャン・タパジョスということになるでしょう。

 古のギター同好会「ギタリスツ」会報、市本登さんの記事(1991年8月)で、私はこのギタリストのことを知りました。それによると、彼は1944年生まれ。1972年にヨーロッパツアーをしてからは、ドイツを演奏の拠点としているそうです。市本さんの紹介文は、まだ未体験のギタリストへのあこがれを喚起するに十分でした。私は、聞く前からタパジョスのファンになりかけていたのです。これぞ、同好会ならではの現象でした。

 一番最初に買い求めたアルバムは、ギター・ソロの多い名盤「Brazilidade」(1990)でした。今は無き六本木のWAVEで買ったのですが、最初の曲のロマンチックなテーマから、もうすでに虜の状態。素晴らしいテクニック以上に、その歌う旋律と、リズミカルで奔放なサウンドが、ソロやデュオ演奏でばっちり楽しめました。私が、ブラジリアン・ギターの楽しさを本当の意味で知ったのは、このアルバムからだったのかも知れません。

 そして、先の紹介文の中で目を引いていた「初のオリジナルギターソロアルバム『Paniel』」は、なかなか探してもありませんでした。というよりも、この人は多作家であるはずなのに(50枚以上のアルバムがあるといいます)当時からそのレコードやCDを見つけることは大変だったのです。私が彼に興味を抱いたその頃は、ちょうどCDとLPが完全に入れ替わって間もない頃で、時期も悪かったのだと思います。
 そうして暇を見つけては探していたある日、遂に新宿のディスクユニオンで見つけたのが、この「Paniel」というアルバムだったのです(何か、ジャズマニアのレコード探索記のノリですね...)。

 「Brazilidade」と何曲かは共通していますが、芸術性と親しみやすさを併せ持つ、情感あふれるギターソロの数々に、私は打ち震えたのを覚えています。メロディーも日本人好みなものが多く、どうしてそれほど(例えばバーデン・パウエルの半分ほどにでも)日本に紹介されていないかがわかりません。レコードで日本盤が発売されていた時期があり、今でも何編かが紹介されてはいるようですが。
 今だから言えば、私の曲の中でも「フェリーの朝」「航海者の歌」あたりの曲は、実はかなりこのブラジリアン・スタイルに影響されていました。
 最近、自宅のアンプが壊れてしまい、レコードを聴けない状態が続いているのですが、録っておいたカセットを久しぶりに取り出すと、来る日も来る日も通勤途中の電車の中で聞いていた思い出がよみがえっています。

 私は、様々な人の手を経て面白くなっていく「伝言ゲームとしての音楽」という考え方を、このホームページの別の所で語りました。それは何もミュージシャンだけの話ではなく、音楽の聞き手にも同じことが言えるでしょう。願わくば、私のこのつたない紹介文が、素晴らしいアーティストを少しでも知るきっかけになれば幸いです。ちょうど、私が市本さんから素晴らしい音楽を知らされて好きになっていったように。

 

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