14.スリーエス Three S

W−200(1977年製、#771124)(現在無し)


表面板:スブルース合板
側板・背面板:マホガニー合板
指板:ローズウッド
ネック:マホガニー
使用アルバム:「赤岩組曲」「Echoes From Otarunay Vol.1
 
 2003年8月に小樽のトーンポエムで購入したギター。この店で買ったギターは今年で3台目、通算5本目となり、いかなギターマニアといえども希な異常事態に陥っている。国産ギター万歳!
 
 「スリーエス」は、多分日本の弦楽器メーカーとして最も古い歴史を持つ、鈴木バイオリン(1887-)がかつて製造していたアコースティック・ギターのブランド。イカ天で有名になった「たま」の知久さんが使っている「Troubadour(トゥルバドゥー)シリーズ」のギターが最も名高い。このシリーズは、マーチンのニューヨーカーモデルのコピーらしく、一見してわかるユニークなモデルだが、私が購入したWシリーズ(ウエスタン・スタイル?)の方が歴史は古いようだ。
 
 オール合板。マーチンD−41(D−28にD−45の装飾を加えたようなギター)のコピーモデルだが、サイド・バックがマホガニー合板というのが特徴的。指板のヘキサゴン・インレイは個人的には嫌いだが、これがなければさらに特徴が無くなってしまうので、ちょうど良いのかも。
 型番からすれば、ラインナップの中でも最も安いギターだったらしい。ロゴは初期のものではなく、そんなに珍しいギターでもないかも知れない。志賀鉄三さんのホームページ(http://www.t-shiga.com/index.htm)での国産ギター・カタログ情報によれば、同じ型番(W−200)でも時期の違いで、このギターとは仕様が違うものがある。
 
 まあ、細かい話はさておき、このギターも良く鳴っていて、良い買い物をした。さすがに伝統的なメーカー、同じマーチンコピーでも他のメーカーとはどことなく違う安定感がある。今まで私が持った合板ギターの中でも、抜群に木目がきれいである(合板じゃ意味ない?)。指板のローズウッドを黒く塗装して黒檀のように見せかけている国産ギターが世の中には多いが(ヤマハの多くは残念ながらその通り)、このギターはナチュラルであり、こういうところも好感が持てる。蛇足だが、指板の塗装は、長時間演奏していると禿げてきて、左手の指が黒くなってしまってなかなか落ちない。左手の指紋がずれるほど執拗にギターを弾きまくる私の場合は、なおさらひどい。たとえ廉価版ギターであっても、なるべくなら止めてもらいたい。
 
 合板ギターであっても、サイド・バックの材質の違いが全体の音色に影響していることは、今までの経験から明らかである。このギターも、ボディーの共振が心地よく、マホガニーらしい軽めの明るい音が基調となっている。
 このギターにも、トーンポエムに依頼して、モラレスと同じくK&Kのピックアップを付けてもらった。ただ、モラレスのちょうどいいバランスと少し違って、共振しすぎて低音が多少歪んでしまっている。近いうちに少し調整してもらう予定。
 
 このギターはモラレスより遥かに弾きやすいため、現在またまたバトンタッチして運河でのメインギターになっている。しかし、私は一体、いつまでこんな事を繰り返すのだろうか...。たちの悪いことに、ギターの「お着替え」は結構楽しいのである。
 
追記(2007-12-6):このギターの響き自体はとても気に入っていましたが、一本調子で音色の変化を出しにくいトップ合板ギター独特の「狭さ」は、スリーエスであっても例外ではなく、私の現在のギタースタイルには合わなくなってきているのを感じていました。そのため、このギターは2007年夏に他の方に格安で譲ってしまいました。その人には幸いにも気に入ってもらっているようなので、これでよかったと思います。
 
ここに、お別れ直前に撮った写真を載せておきます。
 

 

W−40A(1978年製、#780308)(現在無し)

表面板:スブルース単板
側板・背面板:ローズウッド合板
指板・ブリッジ:ローズウッド
ネック:マホガニー
使用アルバム:なし
 このギターは、2008年8月にヤフオクで落札しました。前述の通り、名古屋鈴木バイオリンは国内の弦楽器メーカーとしては最も古い歴史を持つメーカーなだけに、たとえ低価格モデルであっても非常に良心的な作りで定評があります。
 
 スリーエスのトップ単板ギター(W-400[当時4万円]以上のグレード)は、オークションでも高値になることが多いのですが、個人的には、安いのにいい音(しかも独特の鳴り)、というのがスリーエスの大きな魅力だと思っています。私のような国産オールドのファンの方々は、だいたい同じお気持ちではないでしょうか。
 
 さて、このモデルは、他のモデルのような華麗な貝細工が無い一方、ごらんのようにサンバーストとは微妙に違う塗装(「バイオリンフィニッシュ」と言われるもの)がなされています。表面板の木目が見えにくいくらいですが、よく観察するとかなり目の詰まった、良質の材が使われています。前オーナーがきちんと調整していて、弦高も低く弾きやすいギターです。わずかに三角気味のネックですが、弾きにくさは感じません。
 
そして肝心の音は...本当に最高。
やはりスリーエスは日本の名器であると再確認しました。
 
 割と長く上品なサスティン。高音から低音までのバランスの良さ。軽いタッチでも深い鳴り。ジャンボの乾いた音とは好対照の艶やかな音が出ます。今まで弾いたギターの中では、ヘッドウェイの20万円台の高級ギターの音を若干マイルドにした感じですが、決して響きで負けていません。今まで良いと思っていたモラレスBM-60DHも、比較すると残念ながら勝負になりません。これが当時4万円のギターの音だと、いったい誰が想像できるでしょうか?
 
 パワフルな曲では若干線の細さを露呈したものの、まだ入手時のライト弦のままで、私の奏法では標準と言えるミディアム弦に張り替えたら、もっと太い音になると思います。サドルも今のままだとわずかに低いので、ミディアム弦のテンションならちょうどよくなるかも。
 これからも、いろいろ試行錯誤していきたいです。
 
 
追記(2009-6-5):ずっと持っていてもいいギターだと思っていましたが、マスターなど他のお気に入りのギターを集中して弾きたくなってきたため、2009年に手放しました。しかし、スリーエスの良質な単板ギターをしっかり体感できたことは、私のギター人生にとって無駄ではなかったと確信します
 

 

 

W−40(1975年製、#750909)(現在無し)

表面板:スブルース単板
側板・背面板:ローズウッド合板
指板・ブリッジ:ローズウッド
ネック:マホガニー
使用アルバム:なし
 2010年7月に、またもやスリーエスをヤフオクで落札してしまいました。年式の古さと、付属するリッター風の立派なショルダーケースにつられて、思わず手が出てしまったのです。
 
 これは、前に紹介したスリーエスW-40A(78年製)より古いモデルで、塗装はナチュラル、旧ロゴ、多少きつめの三角ネックといった相違点があります。似たような型番、似たような仕様(スプルース単板トップ、ローズウッド合板3ピース)ですが、まず糸巻きがゴトーでなくグローバーなのには驚きました(バッタもんの「クローバー」ではないかと何度も見返してしまいました)。
 
 トップの木目は、実はあまり詰まっていません。しかし肝心の音は、木目のより詰まっていたW-40Aより中低音域が荒くパワフルに鳴り、より経年変化を感じる乾いた鳴りはとても心地よいです。この辺のきれいな軽さがスリーエスの弱点だと思っていたので、うれしい驚きです。ストロークの傷があるので、多分弾き込んで培われてきた音なのでしょう。1弦のフレットの磨りあわせに一部惜しいところがある他は、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。
 
今年から私のラインナップに加わったヤマキF-185は、ブレイシングを含めて大きく修理してもらった分、まだ完全には木が振動にこなれていない感じがしていますが、比較するとスリーエスW-40の鳴りが現時点でわずかに凌駕しています。
またしてもいい買い物をしてしまいました。
フレットの磨り合わせをしてもらったら、このギターも大きな戦力になるでしょう。
 

追記(2012-4-20) NEW!! 良いギターでしたが、結婚生活を直前に控えてギターの本数を減らす必要があったため、2011年冬に他の方にお譲りしました。

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