13.モラレス Morales

BM−50(1980年製?、#10456)(現在無し)

表面板:エゾ松単板
側板・背面板:ローズウッド合板
指板・ブリッジ:ローズウッド
ネック:ナトー
 
使用アルバム:「赤岩組曲」「歌箱」「メイプル・リーフ・ラグ(オムニバス)
 
 2003年6月に小樽のトーンポエムで購入したギター。この店で買ったギターは、これで通算4本目。
 
 「モラレス」(全音)は、1970年代からアコースティック・ギター界に参入したブランドらしい。私も学生時代からその存在を認識していたが、当時のアリス・ブームに乗ったモーリス全盛時代には、このモラレスは「偽モーリス」という不名誉な俗名を付けられたくらい(?)マイナーなブランドだったと記憶している。学生時代、中古のモラレスを何度か触ったが、ありきたりのマーチン・コピー、どうも特徴がなくて、私は欲しいとは思わなかった。
 今改めてゼンオン(全音楽譜出版社)のホームページを検索すると、あのアプローズ(オベーション・タイプのギター)を今でも監修しているらしいが、モラレスの事は触れられていない。
 
 しかし、ギター・ビルダーの志賀鉄三さんのホームページ(http://www.t-shiga.com/index.htm)での国産ギター・カタログ情報などから、1980年代のモラレス・ギターの本格的取り組みのことを知った。オールド・ギター鑑定家として名高い保田誠(マック・ヤスダ)氏の監修で、かなりマニアックかつ戦略的な価格のシリーズが生み出された。それが、この「モラレス・ビック・マック・シリーズ」である(まるでハンバーガーみたいなシリーズ名だが...)。
 
 ドレッドノートのギターもあったようだが、私が買ったマーチンでいうM(OOOO)タイプのギターが何といっても異色。個性的なヘッドのインレイ、スキャロップト・ブレイシング、ロング・サドル、埋め込み式ブリッジ、クルーソン・ペグと、かなり力を入れて作られたらしい。それでいて、このBM−50の定価は何と5万円(シリーズ最上位機種は10万円、最低で3万5千円!)。多分、こんなマニアックなギターをここまでの低価格で量産した日本のメーカーは、後にも先にもモラレスだけだろう。「偽モーリス」なんて、とんでもない話だ。
 
 写真の通り、私はすでにマーチンのM−38を持っているのだが、コスト・パフォーマンスは比較するまでもない。よく見ると、サウンドホールの直径がM−38よりも1センチくらい小さい。なぜだろう。
 音の方は、生ギターの良い部分がきちんと出てくるような、艶のある暖かい音である。マーチンと比べるのはさすがにかわいそうと思いきや、個性の異なる音色と響きで十分比肩している。今すぐ録音で使っても全然おかしくない。
 

(写真、向かって左がBM−50、右はM−38。)

 
 先に購入したヤマハFG−401WBからバトンタッチして、現在はBM−50をメイン・ギターとして小樽運河の演奏に使っている(ただ、当面は気が向いたらヤマハも使いたい)。[注:2007年現在、小樽運河ではマスターOMをメインで使っています。]
 いろんな理由でこのギターにはサドル・ピックアップを付けにくかったので、トーンポエムに無理をお願いして、K&Kというメーカーの、表面板裏に貼るタイプのピックアップを付けてもらい、エンドピンの加工もしてもらった。このタイプのピックアップはハウリングには弱そうだが、小さいアンプでの野外演奏なら問題なし。サドルから取る音より柔らかくて自然なので、私は気に入っている。K&Kは、モーリスのカタログに載っているので、興味のある人はそちらを参照のこと。
 
 全然タイプは違うが、まるでローデンタイプのSヤイリのような、異色のギター。これからの演奏がとても楽しみである。

追記(2009-5-26):このギター、本当は下記のBM-100を入手した時点で手放そうと一瞬考えたのですが、下位モデルにもかかわらず独特の素晴らしい鳴りがあり、なかなか手放せませんでした。しかし、ついに2009年春に、他の方にお譲りしました。このギターの壮行記念として、YouTubeにこのギターを使って三曲のクラシック・ラグのビデオ投稿をしましたので、興味のある方はこちらをご覧ください。

 

BM−100(1980年製?、#12018)(現在無し)

表面板:エゾ松単板
側板・背面板:ローズウッド単板
指板・ブリッジ:黒檀
ネック:マホガニー
 
使用アルバム:「太陽の音楽」「運河のカラス」「Echoes From Otarunay Vol.1
 
 2007年6月、どうせないだろうと思いつつずっと探していたモラレスBMシリーズの最高機種、BM−100をヤフーオークションで偶然発見し、即日落札してしまいました。こんな無茶なギターの買い方をしたのは生まれて初めてでした。
 
 もちろん前述のBM−50の良質な出来が念頭にあったからこその思い切った入札でしたが、まさか実物を試奏もしないでギターを買うことがあろうとは、夢にも思いませんでした。しかし、このギターは中古市場でもほとんど見かけないもので、この機会を逃したら一生後悔すると思ったのでした。
 
 ほどなく届いたこのギターを弾き、自分のこの決断に間違いがなかったことを確信しました。マーチンのM−38に勝るとも劣らない素晴らしい音の出方。しかもマーチンより軽くコントロールしやすい音で、弾いていてとても気持ち良いのです。鳴らすたびにボディーが深く響きますが、響きすぎでシンコペーションの邪魔になるような感じでもありません。特にコードの音楽的な響きが素晴らしく、その点では、新品でこれからまだまだ鳴ってくるだろうマスターOMを現時点で凌駕していると言えるでしょう。
 
 BM−50も良いギターですが、こうして弾き比べてみると、さすがに基本的なレベルが違うようです。サイド・バックの単板と合板の違いからなのか、サウンドカラーが明らかに異なっていて、BM−50はいわば暖かいふくよかな音、BM−100は輪郭のはっきりしたシャリンという鈴鳴りの音です。
 
 外観的にはもちろんインレイやヘッドストック、バインディングが凝っています。指板のヘキサゴンを除けば、私には愛器・ヤマハS−51を髣髴とさせる姿です。
 
 また、それ以外にも写真で比べてみるとわかる通り、BM−100は表面板が焼けていて、おそらく元のオーナーさんにかなり弾き込まれていたのだろうと思います(今のフレットはそんなに減っていないようですが、一度打ち直した跡があるように見えます)。
 
(写真左:M−50、右:M−100)

 このギターは、ヤマハS−51、マスターOMと共に、生涯大事にしたい一本になりそうです。現在は iBeam Active というピックアップを付けて、小樽運河でマスターと代わりばんこに弾いています。弦高設定から少しテンション感があり、スキャロップト・ブレイシングという事情もあるため、このギターにはライトゲージを張って弾いていますが、その辺についても少しずつ試行錯誤していくつもりです。

追記(2007-12-6) その後、このギターはBM-50と共に、信頼できる札幌のギターショップ「ハートランド」(楽天舎)でリペアしていただき、弦高調整などをきちんとしてもらいました。その甲斐あって、実に使えるギターになりました。2007年のCD『太陽の音楽』、そして秋の本州ツアーでも大活躍して、今では文句なくメインギターの一本となっています。

追記(2016-10-4): 今年の春ごろ、長年所有してきたこのギターを手放しました。

気に入っていたこのギターを手放すことになるとは自分でも意外だったのですが、2015年冬に弾かせてもらったオールドマーチンのD-18の音は、それまでの私の価値観をひっくり返すほどの衝撃でした。それ以来、マーチンの魅力から離れることがどうしても出来ず、どうにかして資金を捻出しなければいけない必要に迫られて、このギターを手放しました。その際、とても良い方にお譲りすることが出来て、結果的にも良いことだったと思います。
一生持っているつもりだったギターとの早すぎるお別れでしたが、このギターを弾くことが出来て私は幸せでした。
BMシリーズ、ありがとう!

 

BM−60DH(1980年製?、シリアル番号不明)(現在無し)

表面板:エゾ松単板
側板:ローズウッド合板
背面板:ローズウッド単板
指板・ブリッジ:黒檀
ネック:マホガニー
 
使用アルバム:「太陽の音楽
 
 2007年6月、またもネット通販でこのギターを購入。同じ「ビック・マック・シリーズ」の別タイプ、戦前マーチンD−28ヘリンボーンのコピーモデルです。
 このタイプのコピーモデルは、他にあのヘッドウェイやキャッツアイなどの作りに定評のあるメーカーが作っていますが、やはり比較的珍しいものです。べっ甲柄のピックガード、スキャロップト・ブレイシング、ヘリンボーンのバインディング、ロングサドル、指板のインレイなど、またもマニアックな仕様といえるでしょう。さらに、ここに紹介した3本とも表面板がエゾ松単板ですから、いろんな意味で今となっては貴重なモデルです。
 
 もはやこのシリーズの良心的な作りには疑問の余地がなかったのですが、実際に届いたこのギターはやはり素晴らしい出来でした。
 弾き傷があまりなく、ガンガン弾きこなされてきたものとは言えないのが惜しいですが、バランスのよい伸びやかな鳴りは、今まで私が入手してきたドレッドノートタイプの国産ギターの中で最も優れたものといえるでしょう。とてもこの価格帯のギターとは思えない、コストパフォーマンスの高いモデルです。
 なお、これは推測ですが、このギターのネックは一度リセットされたものらしく、少なくともネックブロックは交換されたものかも知れません。ネックとボディーの接合部分に接着剤の跡が少々あり、本来ネックブロックに刻印がある型名とシリアル番号が全くないのです。そうして調整したためか、ネックの状態は実に良好で、上記の2本よりサドルの高さに余裕があり、弾きやすいギターといえます。
 
 当面ピックアップは付けずに、家でアレンジの確認用として使っていますが、こちらもこれからバリバリ弾いていこうと思います。
 
追記(2007-12-6) 2007年のCD『太陽の音楽』の録音では二曲に使用しましたが、実にいい音で録音できました。そんなに癖がない、適度に鳴る音なので、録音のノリのよいギターだということがわかりました。弾きやすさとも相まって、これからは主に練習や録音で使おうと思っています。
 
追記(2008-4-22):こんな良いギターを、小樽運河での演奏に使わないのはやはりもったいないと思い、2008年4月にピックアップを付けることにしました。ヤマハFG-140に付けていたハイランダーIP-1を引っぺがして、小樽のトーンポエムに依頼して搭載してもらうことにしたのですが、その際、ブリッジが割れてしまったため、ブリッジをマーチンの代替品に取替えていただきました。ハイランダーのブリッジ・サドル加工は面倒だということを再認識しましたが、結論から言って前より素晴らしい音になって戻ってきました。
 
ご覧の通りロングサドルでないのが残念ですが(実はロングサドル好き...)、ハイランダーを付けるのなら普通のサドルの方が加工がしやすくて有利だと言えます。また、古いブリッジはどうやら表面板の塗装をしてからベタッと貼り付けていたらしく、塗装を除去して直付けした新しいブリッジは、弦振動を前よりもきちんとボディーに伝えているようで、音が前よりも明らかによく鳴っています。特に低音は大きな深みを出せるようになり、やっとこのギターの実力通りに鳴ってくれるようになった印象です。現状維持なら儲けものと思っていたので、ブリッジ交換がこんなに良い方向に変わるとは思いませんでした。「ひょうたんから駒」とはこのことです。
 
これからは、ヤマハS-51、マスターOM、モラレスBM-100と同様に、小樽運河でのメインギターにしたいと思います。
追記(2008-6-2):その後、この取り替えたブリッジが早くも剥がれてきてしまい、札幌の楽天舎に改めてブリッジの再接着を依頼しました。
帰ってきたモラレスは完璧。ピックアップのバランスは、紆余曲折ありましたが自力で調整して、やっと満足のいく音で演奏できるようになりました。
これでついに心配事がなくなり、演奏の事だけに集中できます。
 
追記(2012-4-20) 上に記している通り、CD「太陽の音楽」の録音ではじんわりといい音を出していたギター。何度も修理をして愛着のあるギターで、これもなかなか手放せませんでした。しかし、後の結婚生活の準備でギターの本数を減らす必要があったため、2011年春に他の方にお譲りしました。
 

BM−50(2)(1980年製?、#10469) NEW!!

表面板:エゾ松単板
側板・背面板:ローズウッド合板
指板・ブリッジ:ローズウッド
ネック:ナトー
 
使用アルバム:なし
 
2021年3月に練習用として購入したSヤイリYD-75/N以来、1年半ぶり(2022年10月)にギターを購入しました。ゼンオンの「モラレスBM-50」という、1980年ごろに製作されたギターです。以前全く同じモデルを持っていましたが、本数が多すぎて2009年に手放していました(詳細は上記)。

なぜこのモデルを今になって買い戻したのか?、自分でもわかりません。たまたま安値でヤフオクに出ていたのと、マーチンのM-38のようなアーチトップに準じた形を模したモラレスBMシリーズの音が昔から好きで、懐かしくなってしまったとしか言えません。
実際、最上位機種のBM-100(CD『太陽の音楽』のジャケット写真でお馴染み)も、2016年にD-18購入の資金調達のため手放しましたが、今でもちょっともったいなかったと思っているのです。

以前持っていたBM-50は、CD「赤岩組曲」「歌箱」の録音の一部に使った他、YouTubeの動画「The Entertainer」「Waterloo Girl」「Roberto Clemente」の収録でも弾きました。工場生産のギターの中で一番横幅の広い表面板(今や貴重品と言えるエゾ松単板)から出てくる、ふくよかで充実した響きが魅力的でした。ただ、入手した時の状態はデッドストック(未使用品)に近かったためか、やや音がボヤけたところもありました。その点は、音の輪郭がくっきり出てくるBM-100の方が優れていました。

今回新たに落札したBM-50は、ネックヒールにストラップピンが付いていて、それなりに弾かれていた模様。適度に倍音をまとった音も予想通り良質で、ボディーが良く響きます。記憶を辿ると、むしろ以前のBM-100の響きに似ているように感じました。

このシリーズに総じて言える欠点は、弦高調整の余裕が少ないこと。案の定、到着したばかりの状態では弦高が高すぎるので、トラスロッドをいっぱいに締め、以前使っていた低めのサドルに交換してさらに微調整し、なんとか演奏性を確保しました。

比較するとSヤイリYD-75/Nの方が低音が出ているし良く鳴っているのに、どういうわけかBM-50の方が音の鳴り方は気持ちいいのです。今しばらくこの気持ちよさに身を任せて、運河で弾けるようにセットアップするかどうか、このギターの行く末を考えてみたいと思います。
 
 
追記:BM-50の調整(2022-10-26)
 
私は割と不器用な方なので、ギターの調整は基本的に自分ではしないのですが、BM-50を生音で弾きまくって気づいた点をいくつか修正しました。
まず、昔のギターですから弦高が高いのを、低いサドルとトラスロッドで調整した話は前にも書きました。また、このシリーズ全般に言えることですが、標準状態だと1弦側が弦落ちしやすいので、ブリッジピンの穴溝を気持ち内側に寄せてみましたが、あまりうまく調整できませんでした。まあこれは弾き方に注意すればほぼ問題ないことです。

一般的に古い国産ギターは、弦高その他の原因でオクターブピッチが合わないものですが、HOSCOのサウンドオフセットスペーサー(ミネハラ・チューニング・システム)をナットの下に挟み込むと、狂いがだいぶ改善されます。久々に使いました。

一番直したかったのは音のデッドポイント。1弦8フレットだけが音の鳴りが悪く、いろいろ調べてみるとフレットの浮きが原因でした。
根本的にはフレットの打ち替えしか直す手段がありませんが、実は応急処置としての裏技があります。浮いたフレットと指板の隙間に、プラスチックカードの切れ端を挟むのです。どんな弾き方をしても取れないようにうまく挟み込むと、今まで鳴らなかった音が蘇り、嘘のように綺麗な音が出ます。

あとは、ピックアップをつけるのが宿題ですが、昨日今日と小樽運河で生音で弾いたのが気持ちよく、今年はこのままアンプを使わなくても良いかなと思い始めています。

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