★ Natura'Rhythm /荒谷 みつる(Studio migmig MGCD-0001、2004)
1. ストーリー1/2.クロ猫ロック/3.チェット/4.激情/5.オールドモルト/6.ストーリー2/7.並木道/8.戯れ/9.貿易風/10.羊と犬/11.ストーリー3/12.風来坊/13.余興/14.ケムリ/15.発泡酒
北海道苫小牧市出身の若手ギタリスト、荒谷 みつるのデビューCDは、完全なアコースティック・ギター・ソロ。大久保 伸隆、古家 学など、他のミュージシャンへの様々なサポートで着実に活動の輪を広げている人だが、このCDではフィンガースタイル・ギター・ソロの世界での才能を示している。2003年のモリダイラ・フィンガーピッキング・ギター・コンテストでは、葉山ムーンスタジオ賞を受けた実力派である。
現在のアコースティック・ギター界は、言うまでもなく若手ギタリストの躍進がめざましい。筆者が認識しているだけでも、小川 倫夫をはじめ、伊藤 賢一、城 直樹、谷本 光、伍々 慧など、そうそうたるもの。現代はまさに日本ギター界の黄金期、いや新たな黎明期とも言える。そんな中、荒谷 みつるのギター・ソロは一見オーソドックスな音楽形式に、いわば「静かな熱情」を秘めていて、その中でも異彩を放っている。
ドブロ・ギターを使用した3篇の「ストーリー」をアクセントにした構成で、曲想もバラエティーに富んでいる。中でもマイナー調の選択が比較的多く、渋く涸れた印象の曲が特徴的である。
彼の代表曲の一つと言える、じっくりと間を取る曲「風来坊」を注意深く聴けば、彼の音楽的才能の幅広さを実感できるだろう。
チェット・アトキンスに捧げられた「チェット」を中心としてラグタイムやラグ・ブルース調のアレンジも多く、完全に筆者の好み。動きのある「並木道」や「クロ猫ロック」では、イギリス・ギター界の大家であるゴードン・ギルトラップのような快速装飾音が痛快である。さらに若さ溢れる「激情」、一転してアイリッシュのイメージで書かれたような「貿易風」「羊と犬」など佳曲揃い。全体としてどことなく懐かしい感じで、本来ギターが持っている響きが凝縮されている。この点では、新進気鋭のアコースティック・ギター専門スタジオである「Studio migmig」の丹念なサウンド・プロデュースが光る。ちなみに、実力派ギタリスト・Sketch のビートルズ曲集『With A Little Help From My Friends』もここの録音であり、要注目である。
ともすればピックアップを使ったエレクトロニックなサウンドメイク、さらに特殊奏法のもてはやされる傾向のある現代ギター界に真っ向から対峙するかのような、純粋なアコースティック作品と言える。サウンド的にどちらがいいとか悪いとかの話ではない。しかし私は正直に言って、一ギターファンとしてはもちろん、同じギタリストとしても、彼のようなギタリストの存在は心からうれしいのである。