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Ragtime Beatles / John Arpin(Fanfare Records Pro Arte CDD373、1987年)

 続いてのピアノ・ソロは、またもやビートルズ・アルバムをご紹介いたします。私も結構ビートルズが好きで、しかもラグタイム、と来れば買わずにはいられませんでした。予想に違わず、このアルバムはCD時代の最もコマーシャルでユニークなラグタイム・アルバムになりました。

 演奏しますは、クラシック・ラグタイム・ピアニストとしてマックス・モラスやウィリアム・ボルコムらとともに最も有名な一人、ジョン・アーピンです。彼は、レコードも数作(クリオールのフォーク・ラグを収めた『Creole Rags』など)ありますが、ちょうどこの時期から積極的にCDによるラグタイム・アルバムを発表した人です。その演奏スタイルはとても上品なクラシック・スタイル、少しスイングもしているので楽しい雰囲気を持っています。また特にバラード調の曲では、崇高な気品すら感じてしまう、大変上品で情感あふれる演奏が魅力的です。
 少ないながらオリジナル曲もあるようですが、やはり演奏家としての方がよく知られています。そのエンターテナーぶりには、ボルコムよりはモラスに近いものを感じます。

 さて、このCDの選曲を見てみましょう。
 When I'M 64
 And I Love Her
 Maxwell's Silver Hammer
 Here There And Everywhere
 Something
 Norwegian Wood
 Ob-La-Di Ob-La-Da
 Yesterday
 The Fool On The Hill
 Let It Be
 I'm Happy Just To Dance With You
 Honey Pie
 Goodbye

 最後の曲はビートルズではないようですが(不親切にも作曲者リストがないため、誰の曲かわかりません)主にポールの曲を中心に親しみやすい仕上がりになっています。やはりポールの曲は、メロディーの起伏や陽気なシンコペーションが多いのでラグタイムにアダプトしやすいようですね。Honey Pie なんて、原曲からもろにラグタイム調なのでピッタリです。

 こういうカバーアルバムの聞き所はやはりアレンジの出来ですが、ジョン・アーピンの編曲はとても素晴らしいセンスで、名曲のフレーズ(ラムのラグタイム・ナイチンゲールや他のクラシックからでしょうか)を織り交ぜながらきちんと転調したり、華麗にアルペジオしたり、時にはノベルティーのようにユーモラスに、スイング・ジャズ調にフェイクしたりといろいろ工夫が凝らされていて、元のモチーフが少ないのに全然飽きないのです。
 そしてその結果、クラシック・ラグとビートルズのテーマが、不思議な一体感で結ばれているのです。クラシック・ラグを知らない人にも、ラグのユニークな入門編としても、そして単なるビートルズ・アルバムとしても、楽しく聴くことのできるCDです。これは疑いなく、私が聞いた中で最も優れたビートルズ編曲の一つで、音楽家の方にはアレンジのよい見本としてもお勧めします。

 さて、ジョン・アーピンは多くのCDを発表していますが、彼の本格的クラシック・ラグ演奏を最も長時間に渡って楽しめるのは、実は意外にもコンピュータ・ソフトです。
 『ラグタイム・ピアニスト』という、日本語版も発売されたことがあるウィンドウズ対応ソフトがそれで、ジョプリンの曲を中心に何と延々90曲(一日二日ではとても聞き終わることができません)のピアノソロが、MIDIで利用できます。MIDIファイルを見くびっている音楽ファンは、MIDI音源(微細な分解能を持ち、ベロシティーをきちんと検知して音色を変えられる音源モジュール)に少しだけお金を掛ければ、その素晴らしい表現力で至福の時を過ごすことができるでしょう。レコードとほとんど変わりません。このソフトはもう店頭でも見つけにくいようなので、知らなかったラグタイム・ファンは借金してでも買いましょう(あれ、前にも誰かに言ったかな?)。

 

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