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タイム・トゥ・ラヴ/スティーヴィー・ワンダー(ユニバーサル・インターナショナル/Motown Records UICT-1027、2005年)
http://www.steviewonder.net
http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/stevie_wonder/

1. イフ・ユア・ラヴ・キャンノット・ビー・ムーヴド feat. キム・バレル/2. スウィーテスト・サムバディ・アイ・ノウ/3. ムーン・ブルー/4. ボトム・オブ・マイ・ハート/5. プリーズ・ドント・ハート・マイ・ベイビー/6. ハウ・ウィル・アイ・ノウ feat. アイシャ・モーリス/7. マイ・ラヴ・イズ・オン・ファイアー/8. パッショネイト・レインドロップス/9. テル・ユア・ハート・アイ・ラヴ・ユー/10. トゥルー・ラヴ/11. シェルター・イン・ザ・レイン/12. ソー・ホワット・ザ・ファス/13. キャント・イマジン・ラヴ・ウィズアウト・ユー/14. ポジティヴィティ feat. アイシャ・モーリス/15. タイム・トゥ・ラヴ feat. インディア.アリー

 前作『カンバゼーション・ピース』(1995)以来、何と10年ぶりのオリジナル・アルバム
 新作がついに発表されるという噂を何度聞いても、「どうせまた遅れるんでしょ」と、私は半ばいじけたような状態だったのですが(そして実際何度も待たされたのですが)、この長すぎるほど長い沈黙を経て、やっと私たちの元に届けられた本作(テーマはズバリ「愛」)は、当然ながら音楽神・スティービー・ワンダーの歴史的な傑作として、長く語り継がれることでしょう。
 掛け値なしに素晴らしいアルバムであるというだけでなく、多少オーバーに言えば、人類がかつて作ったあまたの文化的創造物の中でも最も意義の深い作品の一つとして、このアルバムを認識するべきであると思います。

 先行シングルカットされた12曲目は、割とストレートなモータウン・ナンバーという感じでしたが、グルーブ感溢れながらスティービー独特の華麗でマジカルなコード感と、月並みな表現ながら「天才」としか言いようがないメロディーセンスは、アルバム全編に渡ってフル回転状態。どの曲を取っても実に気合いの入った素晴らしいもので、新たなスタンダードの誕生と言うべきでしょう。
 特に3曲目の神秘的なファルセット、4曲目の正調スティービー節、最初の妻とハリケーン・カトリーナの被災者に捧げられた11曲目の感動的なバラードなどで、久しぶりに目が潤んでしまいました。14曲目ではラップミュージシャン顔負けのマシンガントークを取り入れているのに、決してメロディーの魅力は忘れないと言う心憎さ。また、サポートする豪華ミュージシャン、特に女性ボーカリストの艶やかさも、このアルバムに彩りを添えています(何と長女のアイシャも参加)。

 『キャラクターズ』(1987)あたりからかつての神々しい輝きが失われたと囁かれ、デビュー以来あきれるほど多作家だった彼が、一転して滅多にオリジナルの新作を出さなくなってしまった(もちろん『カンバゼーション・ピース』は素晴らしい作品でしたが)という近年の状況を考えると、この音楽の充実ぶりはファンとしてとてもうれしいのです。

 今回改めて歌詞にも注意しながら聴いてみると、やはり彼独特のメッセージが随所に現れています。今だからこそ深い意義があるスティービーの唄による現実的な主張を、「愛の園」のように単なる博愛主義と捉えるのは間違っています。(ただし、今回のアルバムに収録された日本語訳は、書かずもがなの所が多く、個人的にはあまり気に入りませんでした。意味を取るために参考に眺めざるを得ないのですが、もっと原詞に誠実で簡潔な対訳を望みます)。

 しかも、説教臭い一本調子なものではなく、言葉の使い方が実に巧みなことに改めて気づきました。スティービーのファンだから彼が歌うだけで納得するという簡単なものではなく、その言葉そのものにも大きな力がこもっています。私たちがいつも疑問に思いながら流されているおかしな日常を的確に突いてくるので、多くの人が納得して、しかも皮肉にも楽しむことができるような機知に富んだものになっているのです。例えば、世によくある「愛は永遠」「君を永遠に愛す」などのような歯の浮く歌の文句に飽き飽きしていた私にとって、4曲目の「Forever is a long, long time / But so what 永遠は長い長い時間、でもそれが何だ!」という最後の言葉は胸に突き刺さりました。
 よくぞそこまで言った!

 もちろん、このアルバムは音楽を愛する人々全てにお勧めします。

 

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