★ スマイル/ブライアン・ウィルソン(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR11916、2004年)
1.アワ・プレイヤー/2.英雄と悪漢/3.ロール・プリマス・ロック/4.バーンヤード/5.オールド・マスター・ペインター / ユー・アー・マイ・サンシャイン/6.キャビン・エッセンス/7.ワンダフル/8.ソング・フォー・チルドレン/9.チャイルド・イズ・ファザー・オブ・ザ・マン/10.サーフズ・アップ/11.アイム・イン・グレイト・シェイプ / アイ・ウォナ・ビー・アラウンド / ワークショップ/12.ベガ - テーブルズ/13.オン・ア・ホリデイ/14.ウィンド・チャイムズ/15.ミセス・オレアリーズ・カウ/16.イン・ブルー・ハワイ/17.グッド・バイブレーション/18.英雄と悪漢 (インストゥルメンタル)/19.キャビン・エッセンス (インストゥルメンタル)
ついにこの時がやって来ました。というか、まさかこんな事が実現するとは思わなかった...というのが正直なコメントかもしれません。ビーチボーイズ、いやブライアン・ウィルソンの幻の傑作と言われてきた「スマイル」(1967年に発表予定とされながら、お蔵入りになったアルバム)が、37年の時を経て、ついにブライアン・ウィルソン名義の新録音で蘇ったのです。決して短くはない愛好歴を持つファンの一人として、心から嬉しい出来事です。
ブライアン・ウィルソンの好調ぶりは、噂で伝え聞いてはおりましたが、最近のライブツアーで「ペット・サウンズ」や「スマイル」の再現をしたという話を聞くと、本当に絶好調という感じがします。そして本編。素晴らしいの一言。
これでは話にならないか。
とにかく、一曲目の荘厳なコーラスから、いきなり心が奪われます。「夢が現実になる」ってこういうことなんだ、と思いました。今まで数多くの海賊盤や、オフィシャル・アルバムに収められた散漫なミックスから推測するしかなかった「スマイル」が、一枚の完成されたトータル・アルバムとして聴くことができる喜びは、想像以上のもの。
「スマイル」の伝説は本当でした。一つ一つを聴いて「何か変な歌詞だな〜」「どうしてこんなリフが出てくるのかな」などと不思議に思っていた曲が、流れの中で聴くと全く異なる整った印象になることがよくわかりました。これには、全体を三部構成に分けたことが功を奏していると思います。前半部の先住民への贖罪の意識、中間部の子供賛歌、そして後半部での「謎の(?)四大元素」を経由して、最後にあの「グッド・バイブレーション」で締めるという劇的な構成。
確かにヴァン・ダイク・パークスの歌詞は難解ですが、大衆音楽に深い精神性を導入しようとしたその実験精神が、やっと本来の形で提示されたのだと思います。音楽的には、素材の展開の仕方が独創的で、「アメリカ交響曲」というべきクラシック音楽的な奥の深さがあります。さらにポップスやコーラスの陽気な響き、そしていたずらっぽい実験性を併せ持つ、実にエキサイティングな作品です。
新録音といっても、録音にはできるだけ当時の方法にこだわっているようでアナログ感が適度に溢れていました。少なくとも私には、ほとんど違和感がありませんでした。
ブライアンの歌声は、当時を彷彿とさせる清涼なイメージを醸しだし、バックバンドやオーケストラの完璧なサポートと共に、これ以上ないくらい理想的なパフォーマンスになっています。かつて、様々な要因で制作をあきらめてしまった過去もあるので、このアルバムの制作には精神的にかなりのエネルギーが必要だったと思われますが、それにしてはブライアンを含め、他の演奏者たちの楽しそうなプレイが目に浮かぶようです。苦しかった歴史は過去のものとして、ついに世界一名高い未完成作品が完成しました。
もはや私の下手くそな解説は要りません。解説ならば、素晴らしいオリジナル・ライナー(David Leaf著)を読むだけで充分です(これはもう感涙ものでした)。ぜひお聴き下さい。
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追加:このCD、(2004年)11月に買ってから今まで、もう何度聴いたかわからないくらい聴いています。ツアー中でもこればかり聴き、完全にハマってしまいました。
ポップスと交響曲の合体を目指しているようなアレンジも、聴き手の予想をことごとく外すようなブライアン独特のメロディーの抑揚も素晴らしい。何度聴いても飽きが来ないし、音楽と詩的世界の両面で新しい感動があります。
疑いなく、私の人生体験の中でも大きな位置を占める作品になりました。同じくブライアン・ファンのギタリスト、小川倫生くんとも、これについてはいつか語り合ってみたいです(註:実際、後日この話題について彼とメールでやりとりしているうちに、一緒にジョイント・ライブをすることが決まりました)。私が昔買った海賊盤との聴き比べなど、かなりマニアックな興味も続いています。
例えば新しいスマイルの「Roll Plymouth Rock」という曲が、海賊盤では当初予定されていた「Do You Like Worms」や「Bicycle Rider」というタイトルだったり、どうにも散漫と思われた公式盤『スマイリー・スマイル』(1967)の「Wonderful」はスマイルと全くの別バージョンだったことなどなど。もし新スマイルが当初の完成形と同じものだとすれば、実は未完成にしても土台部分くらいは出来ていたという事が、海賊盤から読みとれます
ちなみに、『スマイリー・スマイル』は、私が大学の頃?買った初めてのビーチボーイズのレコードですが、音が薄すぎる上に倦怠感があり、その後再びビーチボーイズの魅力に気づくまで少し長い時間を必要としました。そして、今また、私の中でビーチボーイズの「マイブーム」も起きています。『スマイリー・スマイル』の次に発表されて不評だった『ワイルド・ハニー』(1967)、私は結構好きになってきたのです。ほとんどブライアン抜きで作られたアルバムですが、明らかに間に合わせで作られたと思われる前作より力強く、シンプルに楽しいロック・アルバムです。
(以上)