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Dr. John Plays Mac Rebennack(Clean Cuts CCD 705、原盤1981年?, 1988年CD再発)

 ギターが続きましたので、今度はピアノ・ソロを。実は、私はギター音楽よりもピアノを聞いている時間の方が長いくらいで、いきおいピアノ音楽の方に比較的多くの愛聴盤があります。ラグタイム・ピアノの名盤ならいくらでもご紹介することができますが、ここは少し予想を外して、ニューオーリンズ・ピアノの大名盤を挙げておきましょう。

 ドクター・ジョン! このニューオーリンズ音楽史上に特筆されるべきベテラン・アーティストは、長い間ニューオーリンズのスタジオ・ミュージシャンとして活躍したあと、名盤「ガンボ」(1972)でロック・ファンにも有名になりました。ちなみに、私のドクター・ジョン初体験は、高校生の頃、ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」だったと思います。

 プロフェッサー・ロングヘアーの影響を受けた典型的なニューオーリンズ・スタイル、ブルースのみならずジャズのフレイバーも感じる幅広さ、独特の臭みのあるボーカル、そしてそのワイルドで包容力のあるビート。初めて聞いた頃はあまりその良さがわかりませんでしたが、聞き込む毎に、そして音楽の好みがラグタイムやジャズに近づくと共に、私は彼の音楽の虜になっていきました。私も「ガンボ」が決定打となり、彼がめちゃくちゃ大好きになりました。このレコードを買ってからは、しばらく「アイコ、アイコ、アンデイ!」が耳から離れなくて困ったものです。最近のレコードは不幸にも聴いていませんが、機会があればぜひ聞いてみたいです。

 このアルバムは、そんな彼の11曲のピアノ・ソロと2曲の弾き語りを収めた、全てのピアノ・ファン必聴盤です。タイトルの「マック・レベナック Mac Rebennack」とはドクター・ジョンの本名で、音楽シーンのカリスマとしての存在から逃れた、一ピアニストとしての音楽がここに結実しています。心が震えます。
 オリジナル以外にも、「きよしこの夜」のようなトラディショナルもやっています(これがまた普通と全然違う方向に行ってしまって、すごく楽しいのです)。時にはファンキーに、時には華麗かつ落ち着いた酒場の音楽に戻り、彼の音楽の奥深さを感じます。さらに、痛快なブギ・ナンバー(オリジナルの「Mac's Boogie」とパイン・トップ・スミスの古典ブギ)がバキバキと決まってくれています。ああ、何と心地よいことか。

 私は、クラシック・ラグタイムを追求したての頃は、こういうちょっと色の付いたニューオーリンズ・スタイルがなじめなかった時期もありました。いろんなスタイルがラグタイムなどのルーツ音楽から派生しているのを短絡的に考えて、「クラシック・ラグこそ最高」「ブルースに堕してはいけない」という権威主義に影響されていたのです。まだまだ私も青かった。でも今はもうイケイケ状態で、こういう心の余裕ありまくりの音楽を素直に楽しむことができます。いや、それどころか、ひょっとしたらドクター・ジョンこそ、ジャンルの垣根を飛び越えた、現代でもっともメジャーなラグタイマーではないかと思えてしまうのです。

 大人の音楽、まさにそんな感じのアルバムです。バーボン・ウィスキー片手に楽しむというのもいいですよ。

 

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