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★ ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム Bringing It All Back Home/ボブ・ディラン Bob Dylan(CBS/SONY CSCS 6011、1965年)

 前に書いたような事情で、現在はアルバムを聴きまくる毎日ですが、最近やっと新しいアンプを購入しまして、レコードも聴くことができるようになりました。なんと6年ぶりのレコードはやはりジーンときて、思わず「CDなんていらない!」と感じてしまうくらいのいい音なのです。例えば、以前ご紹介した「ビートルズVol.11」という編集盤と、私の持っているレコードで同じ曲を聴き比べたところ、全くお話にならないくらいレコードがいい音を出してました。予想はしていましたが、バッタもんの編集CDは、やはりマスターの録り方がいい加減なのでしょう。しかし、それ以上にレコードの空気感というか、ワイルドな広がりが改めて確認されました。

 このボブ・ディランの歴史的名盤のレビューをまともにやる能力や知識は、今の私にはありません。しかし、今回はまずそういう観点でオーディオ・チェック的に聴いてみました。すると、廉価版CD(1800円)にも関わらず、さすがにレコードとはひと味違うハイファイ感がありました。高音域のパキパキとしたギターの輝き、ディランの若く艶やかな声、そしてバンドの、今考えればやり過ぎなくらい騒々しいフォーク・ロック・サウンドもクリアです。それに対し、レコードも負けてはいないのですが、やはりCDに比べたらハイが抜けません。リミッター感から、音の圧力がより高いような感じも受けます。また、各トラックの分離が悪く、音の固まりという感じがします。しかし、そこがまた一つの味、迫力を演出しているという考え方もできるでしょう。CDは分離が良すぎて、バンドの蚊帳の外でディランの声だけがクリアにオーバーラップしているような不自然な所も感じました。でも、やっぱりCDは、元の録音+マスターの善し悪しで素晴らしい音になるものです。

 音の迫力という意味では、このアルバムは元々とても奇妙な位置にあったと言えるでしょう。なぜなら、今でこそこのアルバムは「ディランの初めてのフォークロック・アルバム」「ロックの歴史的名盤」と言われていますが、実際明らかなバンドサウンドの曲は半分ほどで、従来の弾き語りスタイルもミックスされた、意外にいろいろな音の表情を持つ作品なのです。その事を私は今回再認識して、ディランの曲作りの天才性もさることながら、全体のサウンド・センスの見事さも改めて感じました。
 確かに今さら言うまでもなく「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」「ミスター・タンブリン・マン」「イッツ・オーライト・マ」「マギース・ファーム」「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビー・ブルー」など名曲の嵐状態ですが、次作の「追憶のハイウェイ61」以後ますます大規模のバンド編成になっていく直前の、ディラン流バラッドと最新の電気化の初々しいバランス感覚(実はまだちょっと「フォーク」が勝ってるかなーというくらいの)が、このアルバムの最も大きな音楽的特徴ではないかと思うのです。

 ディランの「難解な」歌詞は、今こうして客観的に見れば、いわゆるポップ・ミュージックの枠をあまりにもはみ出しすぎています。また若い詩人故の自己主張なのか、言葉やイメージが次々に放たれて行くだけで全然帰結がなかったりして、私にとっては容易に共感できない所が目につきます。しかし、決して単なる芸術家気取りの言葉遊びではなく、ある時はフーテンの目から見た上流社会の矛盾、ある時は神話の矛盾、ある時は旅への憧憬、ある時はコミュニケーションの断絶、心象イメージのままに書き殴るエネルギー、ナンセンスや悲観的ユーモアを交えた不思議なバラッドという、ディランにしか提示できなかった独特の詩的世界が広がっています。そこから何を読みとるかは、聴く人の手に委ねられていると言えるでしょう。

 何か、やっぱり今さらだったかな...

 

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