★ ローリング・サンダー・レビュー/ボブ・ディラン(二枚組)(ソニー SICP-296-7、2002年)
ジョージ・ハリスンの次だからということはありませんが、今度はボブ・ディラン、1975年の伝説のツアーを収めた大作ライブ・アルバムをご紹介します。英語の副題に「The Bootleg Series Vol.5」とあり、約十年前からの「ブートレグ」対策のオフィシャル・シリーズがまだ続いていることに驚きました(そもそも、1975年の『地下室』も、すでに海賊版対策の作品でした)。海賊版の枚数がビートルズをはるかに越える、ディランならではの現象です。
さて、ボブ・ディランのファンは私の周りにも多いのですが、1976年の『欲望』以降は聞かなくなってしまった、と言う人があまりにも多くて、いつもがっかりしています。私は1979年の『スロー・トレイン・カミング』からリアルタイムにディランを追いかけていったファンとして、彼の新作はだいたいチェックしてきました。
しかし、『欲望』がディランの名作かつビッグヒット・アルバムであることは確かで、この頃の音楽的・詩的充実度が、最高傑作『ブロンド・オン・ブロンド』とはまた違った高みにあったことも事実です。ちょうどその前あたり、1975年に、このアルバムに収められた「第1期ローリング・サンダー・レビュー」のツアーが行われました。
変わったタイトルのツアーですが、これは昔の旅芸人一座のような感覚でツアーがやりたいというディランの意向に添ったもので、ジョーン・バエズやT・ボーン・バーネットを筆頭に、多くの有名・無名ミュージシャンが参加しました。数多くの公演が行われたため、必然的に、以前から海賊版が多数出回っていましたが、このオフィシャル盤は言うまでもなく最高の音質で、テイクも厳選され、ディランのパワフルな歌をこれ以上ない形で伝えています。
ディランのライブ盤は、オフィシャルなものですら異常なくらい数多く出ていますが(海賊版を入れたら無数)、私はこれ以上に熱く生々しいライブ盤を知りません。そのくらい、バックのメンバーも、ディラン自身のパフォーマンスも、実に迫力があり、楽しめるものになっています。
曲目としては、やはり当時の未発表新作である『欲望』からの曲が多く(6曲)、それは比較的スタジオ盤に近いアレンジなのですが、おなじみの名曲は例によって意外なアレンジで歌われています。ディランの神髄は、スタジオ録音盤だけでは伝わらないという好例で、どの曲にもライブならではの魅力があります。
この点は、一部の著名ミュージシャンのように、レコードと同じ音を出すことでナツメロファンを満足させるだけの味気ないライブとは、根本的に異なるものです。
当時の最重要作品「ハリケーン」のライブテイクは、あの熱いスタジオ盤を凌駕するほどの圧倒的パワーを持ち、無実の罪で捕らえられたボクサーへの共感と検察当局への怒りが感じられる、世紀の名演と言えるでしょう。また、ロジャー・マッギンが参加した「天国への扉」などアコースティックなセットも多いので、「弾き語りディラン」のファンも満足すると思います。
充実した解説、未発表写真を多数収めたブックレットも付き、ディラン・ファンのマスト・アイテムと言える内容です。
これからのブートレグ・シリーズも、是非期待したいと思います。