★ ベリーバトゥン/ジェリーフィッシュ(東芝EMI バージン VJCP-28175、1990年)
だんだんロック特集になってきそうなこのコーナーですが、もともとラグタイム以前から聞いていたジャンルなので、私にとってはそんなに変なことではありません。
今回は、気が付いたらついつい聴いてしまっているという、このバンドを取り上げてみます。
アメリカはサンフランシスコ出身のロック・バンド「ジェリーフィッシュ」は、1990年にデビュー。ビートルズやXTCの再来として日本ではずいぶん注目されましたが、結局2作目『こぼれたミルクに泣かないで』(1993)発表後、なぜか解散してしまいました。この凝りに凝った2作目の方が商業的には成功したようですが、私はこの全然売れなかったらしいデビューアルバムの方が好きなのです。
また洋楽ロックを聴き始めた頃の、ビートルズ、クイーン、ビーチ・ボーイズといった名バンドのテイストがそこかしこにちりばめられていて、しかも相当センスのいいポップ感覚、私は今聴いても感心します。
音楽的中心は、アンディー・スターマー(ds, vo)とロジャー・マニング(g, kb, vo)の二人で、60〜70年代のロック全盛期を彷彿とさせる音作りです。特にコーラス・ワークは絶品。リンゴ・スターやブライアン・ウィルソンとの交流もあり、また解散後、アンディー・スターマーは日本の奥田民夫と共作もしています。
今でこそ、ビートルズ感覚は音素材の切り張りでお手軽に、と言う音楽業界の流れがあり、いわば調味料の一つになり下がってしまっていますが、シンプルなバンド・サウンドで、まだ若いアメリカのバンドがいち早くそれを実現していたのは注目すべき事だと思います。そう、どう聴いてもアメリカ的でないのがおもしろいのです。ギターの甘い音程などにも「若さ」を感じるのが、また味になっています。
本家イギリスのメジャー所、例えばオアシスなどにもこうした「ビートルズ感覚」が感じられますが、こちらの方がポップミュージックとしてはよく消化されていて、徹底的なマニアックさを感じるので、私は好みなのです。
たぶん、好きな音楽へのオマージュが、商業的なものにとらわれることもなく素直に出ている所が、今でも私の愛聴盤になっている理由なのでしょう。
よく、昔のロックに似たアレンジの音楽を聴かされると、「二番煎じじゃん」と即断してまともに聴かない人もいますが、それは実にもったいないことだと思います。すべての音楽は、そもそも長い長いスパンで続いている伝言ゲームであり、いわば二番、三番煎じ。お茶だとたとえが悪いので、日々継ぎ足して熟成していくラーメンスープと言えば近づくでしょうか。ビートルズだって、最初はプレスリーやラリー・ウィリアムスの二番煎じだったとも言えるでしょう。
ジェリーフィッシュの来日公演を見に行くことができなかったのは、今でも残念です。