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The Shearing Piano / George Shearing(Capitol Jazz 7243 5 31574 2 5、1957?-2001年)

 「好きなCD」における初めて(?)のジャズ・アルバムは、最近手に入れたジョージ・シアリングのCDです。もとは10曲入りのLPだったようですが、ここでは未発表曲を加えて、倍の20曲入りになっています。
 私は、ジャズ・ピアノの好きだった父から彼の名前といくつかの編曲は聞いていたものの、シアリングのことに関してはほとんど何も知りません。彼の曲「バードランドの子守唄」は昔からスタンダードになっていますが、今改めて考えてみると、何とも言えない唯一無二の個性を持っているメロディーとモダンな響きがあります。これは、そのシアリングのソロ・ピアノ・アルバムですが、なぜ今まで手に入れてなかったのだろうと、無学な自分を恥じ入るばかりの素晴らしいアルバムです。

 美しい。
 このアルバムを形容する言葉に、この一語を使わずにやり過ごすことは絶対に不可能です。クラシック・ピアノの印象派的な分散和音や、抑揚の効いた甘く深いピアノの響きは、これがジャズ・アルバムということさえ忘れてしまうようです。「Stella By Starlight」「Tenderly」などの有名な原曲が全く新しい装いに生まれ変わり、シアリングのピアノ編曲は既に作曲とほとんど同義になっているのではないかと思われます。彼の編曲は、ベースやコードの半音進行的な所に特徴があります。次々と泉のように涌き出る豊かなコード感、流れる雲のように奏でられる優雅な調べは、ジャズが専門でない私が聴いても心洗われるものがあります。

 英文の解説では、過去のクラシックからはラフマニノフやプーランク、そしてドビュッシーからの引用が挙げられていますが(最後はまさにドビュッシーの曲)、ここぞという所に見られるストライド奏法とクラシック風の華麗なフレーズとの対比も素晴らしいです。その意味では、ユービー・ブレイクの「Memories Of You」が特にアクセントになっています。単にピアノの達者な人がよく陥りやすい「クラシックっぽくしてみました」という折衷主義を完全に超えた完成度と精神性をもつ、神々しいソロ・ピアノが全編に渡って堪能できるのです。

 思えば、ジャズと印象派に関しては、私も過去「ノベルティー・ピアノ」の作曲家や、ビックス・バイダーベック、シアリングがインスパイアされたというアート・テイタムのピアノ曲などを知るうちに、ずいぶん両者の近しい関係を見てきた気がしますが、このシアリングのアルバムは、それらの中でもまた別格の存在感を持っています。軽く聞き流せるほど耳に優しく、低音もそれほどがんがん鳴らしていない割に、聞いた後はむしろ「いぶし銀」のように重厚な印象を持つのが不思議です。私は、久しぶりに居住まいを正してしまうほどのシビアな音楽に触れ、とても感銘を受けました。
 久石譲やジョージ・ウィンストンなど、優しげなピアノの好きな方は日本人に多いと思いますが、そんな方にはぜひお勧めいたします。

 

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