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★ ヘイ・ジュード◎イエスタデイ Hey Jude Yesterday/山下和仁(日本クラウンCRCC-7012〜3、2000年)

 ギター名盤ということで、どんどんマニアックにいってもいいのですが、このコーナーをギター同好会の延長にはしたくないので、さらっと軽くいきたいものです。そんなわけで(?)、ビートルズアルバムを取り上げましょう。
 近年、スティーブン・キングやローレンス・ジュバーといった海外の名ギタリストたちが、こぞってビートルズの曲をギターソロにアレンジしたアルバムを作っていますが、我が国でもこの分野における決定版とも呼べるアルバムが出ています。それが、日本の誇る名ギタリスト・山下和仁で、しかも驚異の2枚組CDというから、もう聞くしかないという作品です。改めて山下さんのプロフィールを見ると、1961年生まれ。うそー? こんなに若くして、ギター界に記した足跡の何と大きな事か。

 全36曲、尽きることのない驚きの時間という感じで、山下さんならではの迫力ある演奏と「そこまでやるか?」というくらいオリジナルの音に忠実な編曲が聞き手に迫ってきます。仮にこのCDに準拠した楽譜が出ていても、一体どれだけの人が山下さんのように弾くことができるでしょうか。
 選曲も、もちろんタイトル通りのような名曲はカバーしていますが、あまりギターソロでは取り上げられない曲も多く、特に「バンド」ならではのナンバー(Love Me Do, All My Loving, A Hard Day's Night, Ticket To Ride, Sgt. Pepper's など...)にはぶっ飛びました。一見ギターでは無理に思えるこういう編曲を、あえてギター一本でやる姿勢は、交響曲や管弦楽曲のアレンジで世界を驚嘆させた方向性と共通するものがあります。

 そう、単なる編曲というより、もはや模倣(simulation)の域に達していると思うのです。メロディーも、ベースも、和音も、リズムも、明らかにギター以外のものをギターで表現しています。普通のギタリストの発想では、耳障りのいいメロディーだけを取り上げて、ギターに都合のいい和声やベースを入れて無難にまとめるものですが、山下さんの編曲はあくまでオリジナルに対する敬意、そしてサウンドとしての音楽を丸ごと具現化する力と技を感じます。しかも、それがギリギリの所ではなく(以前はそのギリギリ感が気になるところがありました)、深い懐から生み出されているように思いました。
 このアプローチを「オリジナルにとらわれすぎている」「ギターとしては少し無理がある」と断ずるのは簡単かも知れませんが、ギター音楽の限界に常に挑戦してきた山下さんの情熱は、その無理を通す力が確かにあるのです。

 私も、ラグタイム・ピアノのアレンジを実現するためにチューニングを変えてしまった者として、この山下さんの編曲姿勢に深く感じ入っております。「効果的アレンジ」「独特の味」などと称してオリジナルを都合よく改変し、ギターの限界に屈してしまう多くのギタリストたちに、山下さんの音楽が示唆するものはとても大きいのではないでしょうか。

 何はともあれ、ビートルズ・ファンにもクラシック・ファンにも絶対お勧めのCDです。

 

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