【え】
えいえん【永遠】[名詞/形容動詞]
いつまでも変わらないこと。エンドレス。この無常の世では、たとえどんなものにもあり得ない状態だが、多くの作詞家・コピーライターがこの語のバーゲンセールをやり続けてはばからない。彼らは、手塚治虫の『火の鳥』をちゃんと読んでないのだろう。対象としては、「命」「(宝石や目の)輝き」「愛」「精神」など、とりあえず自分やその関係者が冥土に行く時くらいまでは長く続いて欲しいものに対して多く適用される。それ以上を求めるのは欲張りというものだし、さっさとバトンタッチしないと後がつかえている。えいご【英語】[名詞]
本来はヨーロッパの一島国であるイギリスの言葉。しかるに、かつての植民地政策から支配圏の拡大が始まり、現在はアメリカが押し進めるグローバル化の波にも乗って、世界標準語となるほどの、破竹の快進撃を続ける言語。昔は宣教師と共にやってきたが、今は子供のウケを考えてミッキーマウスやハンバーガー、さらにはパソコンやピンク色のウサギとともにやってくる。今起動しているあなたのウィンドウズマシンの左下隅には、スタート(開始)と書いてあるはずだ。ギターには、まだ「弦」「表面板」などと通常は日本語を使う部分が残っているが、すでに「トップにクラックが入る」(表面板の塗装に経年変化で亀裂が入る)のような英語使用例もあり。このようにあまりに英語が普及しすぎた結果、他の少数言語はかなり深刻な危機を迎えている。インドやシンガポールなどのように、日本でも公用語となる日はいよいよ近いらしい。「野球」のような独自の翻訳語を使ったり、「ミシン」のように変な形で定着することもなく、英語をそのまま受け入れるのが近年の潮流となってしまった。例えば映画のタイトルは現在ほとんど英語で、中には当の欧米人ですら意味の取りにくい言葉もあり、日本のお年寄りが見に行きたくない気持ちは良くわかる。天下の国営放送・NHKの幼児番組では、イロハも言えない子供たちに「Yeah!」と言わせて盛り上げる。イケてるホストたちの「ふぅ!」という、突然の気が触れたようなシャウトは、ただの間投詞だがやはり英語と思われる。流行に敏感なミュージシャンたちの口から、英語が出てこない日はない。音楽の分野における英語のくそったれな使用例を挙げると、それだけで本が何冊も書けてしまう。とりあえずみんなが真っ先に困るのが、CDジャケットの制作者情報(personnel)。全く見込みがないのに世界戦略を見据える人が多く、英語で書くのが通例になってしまった箇所だが、人名の漢字まで全てローマ字化してしまうため、知り合いですら誰が誰だか解読するのに少なからず手間がかかる。このため、私は友人の名の漢字を間違えて覚えていたこともある。J−POPの曲名、グループやバンド、ユニットの名前を見よ。多くが英語、しかもカタカナすら使われていない。まあ、直訳するとだいたい「ポカリの汗」みたいな奇抜な言葉が多く、多くのアメリカ人が苦笑すること請け合いである。Oh my god!えいちしー【HC】[名詞](補遺)
@(『大辞林 第二版』、ウィキペディアなどによると)炭化水素(hydrocarbon)、ホームセンター(home center)、ヘルスケア(health care)など、略していったい何になるというのかわからない単語が多く出てくる。男性ならハードコア(harecore)の略称として真っ先に思い浮かぶので、恥ずかしいなあ。
Aギターに関係する略称としては、ハードケース(hard case)がある。同様にソフトケース(soft case)をSCと略することもあり、つまりソフトコア(softcore)とおんなじ。だから何でも略すなってば。えむしー【MC】[名詞](補遺)
そもそも英語の「master of ceremonies 司会者」の略。しかし日本においては、ステージ上でミュージシャンが曲の合間にしゃべったり軽口を叩いたりすることを指す。推察するに「お前がMC(司会者)をやれ」と言う意味で、バンマスがボーカルにでも命令したところから派生したのだろう。類語:トーク。例:「あいつのMCは歌より断然面白い」。実際、MCのないステージは、時に針のむしろになる。エンターテナーを目指すミュージシャンが、本末転倒するほど入れ込むジャンルであり、この場合お笑い芸人との区別は意味を成さない。ちなみに私はこう見えてもMCが苦手で、たとえネタ帳通りにしゃべろうとしても舌が絡まってしまう。エンターテナーへの道のりは険しい。えむてぃーあーる【MTR】[名詞]
英語の「Multi Track Recorder 多トラック録音機」の略語。複数のトラックに同時録音もできるし、別のトラックに後から録音もできる(多重録音)。昔は記録媒体にテープ、今はハードディスクを使うものが多い。これさえあれば何でもできると宅録派ミュージシャンにもてはやされたのも昔の話で、今は音源ボードのおまけにMTRソフトがついてくるなど、当時のありがたみはなくなった。ビートルズの時代は最先端でも4〜8トラックだったが、今では技術的発展めざましく、理論上は無限トラックが当たり前。しかし、ビートルズの無限倍に面白い音楽になったとはとても思えない。化粧と同じく、元からダメなものは、いくらごまかしても本質的にはやっぱりダメなのだ。→ミックス。えるでぃー【LD】[名詞]
→レーザー・ディスク(LD)。えるぴー【LP】[名詞]
→レコード。えんたーてなー【エンターテナー】[名詞]
英語の「(an) entertainer」。「エンターテイナー」とも表記される。
@アメリカのラグタイム作曲家スコット・ジョプリンが、1902年に出版したピアノ曲(「The Entertainer」)。1971年のアメリカ映画『スティング』の主題曲として大ヒットして、今では最も有名なラグタイム曲の一つになった。
A芸人。狭義には、人を笑わせるようなちょっとおもしろおかしい芸風もそつなくこなす、人気のある実力派芸能人。私は真っ先にサミー・デイビス・ジュニアを思い浮かべる。うんと広義には、金のために嬉々として全国のさらし者になっている幾多のテレビ芸人も含む。どちらにしても、音楽家がエンターテナーの称号を得るのは意外に難しい。どういう訳か彼らの多くが暗い性格だったり、話し下手だったり、はにかみ屋を気取っているため、いくら演奏のうまいバーチュオーソもそれだけではエンターテナーの条件をクリアできない。これは、世の人々が音楽家にとって一番大事だと思っているものは演奏や音楽の素晴らしさではなく、実は性格の明るさやトークの才能であることを示している。個人的には、ただ遊んでいるだけで人に喜んでもらえるようなタレントには、この言葉の適用を除外したいと考えている。語源は英語の「entertainer 人を喜ばせる人」で、つまり本来、自分自身は別に喜んでいなくてもいい。実際、人を喜ばせるには、筆舌に尽くしがたい苦労の蓄積、心労とやるせなさ、そして悪辣な批判に耐えなければならない。そうした水面下での苦労は、昔は隠すのが美徳だったが、現代では回顧録や暴露本を執筆するために逐一リストアップされて出番を待っている。