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【は】

は【〜派】[名詞](補遺)
 同じ考え・主義・志・嗜好などを持つ人たちの集まりを総称したもの。多くは接尾辞的に使われる。例:「開国派」「ロマン派」「タカ派」「派閥」。例えばAとBという二大スターがいるとすると、必ず彼らを信奉する「A派」と「B派」が対立構造を現出させる。その対立には、裏で糸を引いている奴がいることもあり、場合によっては、その糸を当のご本人たちがせっせと縒っている時もある。人間は、話し合いによる共存を計るよりも、つまらない派閥を立てて争う方を好むものである。つまるところ、サルの軍団や魚の群れと同じ。しかも不思議なことに、教養や品格といったご立派なものが身に付けば付くほどその傾向が強くなる。ウソだと思うなら、クラシック界を覗いてみるべし。彼らは、教室単位に派を作って争っている。

はーもにくす【ハーモニクス】[名詞]
 倍音のこと。ギターでは、実音に含まれる倍音よりも、主に特定のテクニックで出された倍音を指す。開放弦のハーモニクス・ポイントで出す自然ハーモニクス、ハーモニクス・ポイントを直接叩いて音を出すタッピング・ハーモニクス、フレットを押さえて出す人工ハーモニクス、ピックを使って出すピッキング・ハーモニクスなどの種類がある。ギターソロ曲の中には、今までつっかえたりして苦しみながら何とか音をひねり出してきたのに、なぜここで異様にきれいなハーモニクスが出てくるのか解釈に苦しむようなものもある。これは「突然ハーモニクス」と名付けたい。

ばいおりん【バイオリン】[名詞]
 英語の「violin」で、4弦の擦弦楽器。奏者はバイオリニストと言う。この楽器は比較的小さくて軽いので、顎の皺(しわ)や喉の襞(ひだ)で持ち上げることができる。バイオリンは、言うまでもなくクラシック音楽の花形楽器で、世界で一番美しい音を出す楽器だと言われることもある。最初にそう言った人は、バイオリニストの知り合いに違いない。一方、バイオリンの下手くそな演奏は、ノコギリと同列に扱われ「ギコギコ」と擬態語で表現される。このギコギコの周波数は、人間の最も不快に感じる音域。キカイダーを悩ませる笛みたいなものだ。かの『悪魔の辞典』には畏れ多くも「Fiddle」の項で載っていて、「馬の尻尾(しっぽ)で猫の腸をこすり、ひとの耳をくすぐる道具」と定義されている。この尻尾は高価な割によく切れるので、そのまま構わず演奏していると腸と間違えて指で押さえてしまうことがある。バイオリニストが演奏中、その邪魔な尻尾の切れ端を弓から力任せにひっこ抜く時の憤怒の形相は、演奏以上に鬼気迫るものがある。→フィドル。

はいりこむ【入り込む】[動詞]
 何かに心から夢中になって、その世界に没入する。幸運にして何かに入り込んだ者は、目がうつろになり鼻息が荒くなる。不幸にして入り込めない者は、なぜかその場から浮いてしまう。音楽には、誰にでも気軽に楽しめるもの以外に、かなり苦労して入り込む努力をしないとダメなものも多い。つまり、その世界をとことん好きになり、その世界のローカルルールの中で楽しむのである。最近は、そういうプロレスみたいな楽しみ方しかできない音楽が増えてきた。特にギターソロなんてまさにその通り。ベースが欲しいなとか、ドラムスが入っていれば面白いのにとかよく言われるが、この提案の実現にかかる経費はバカにならないし、せっかくギターソロの世界に入り込んだ人のうつろな目を覚ましてしまうため、ソロ奏者からたいてい却下される。

はいゆう【俳優】[名詞]
 テレビや映画、舞台などの分野で活躍する役者。ミュージシャンと比較的高い確率で双方向性のある職業。役を演じることと、歌を歌うことの間には、非常に密接な関係があるので、これは自然の流れといえる。しかし、一方で俳優は、自分のライブの宣伝をテレビで簡単にできてしまう立場の人だから、小さいライブハウスも満員にできない無名の専業ミュージシャンからやっかみを受けるのはしかたない。

はうすみゅーじっく【ハウスミュージック】[名詞]
 英語の「house music」。クラブ(ディスコ)で演奏される打ち込み系のダンス音楽。現在ではラップとも密接な繋がりがある。その名に反して、家で聴いたり、カレーやシチューのCMで使ったりする音楽としてはあまり適さない。

ばぐぱいぷ【バグパイプ】[名詞]
 英語の「bagpipe」。イギリスの民族楽器で、吹奏楽器の一種。とてもやかましい音が四六時中続くのが特徴。これの奏者を俗にパイパーといい、善良な市民から悪魔のように恐れられた。あんまりやかましいので、昔は新大陸へ移民せざるを得なかったパイパーもいた。しかし今の時代、音量が理由で国外追放されるなら、ロック・ミュージシャンは一人もいなくなる。

ぱくる【パクる】[動詞]
 口語・俗語。食べ物を丸飲みするときの擬音が語源か。
 @(警察が犯罪者を)捕まえる。犯罪者の側が受身形で使う場合が多い。例:「パクられんじゃねぇぞ」。
 A盗作する。後ろめたい響きがつきまとう語だが、盗作の定義は非常に曖昧で、元ネタにどの程度似ていたら盗作かという指針はないか、あっても極めて疑わしい。創作と盗作、作曲とパクりは表裏一体。「温故知新」ということわざもあり、昔の人は本当にうまいことを言ったものだ。つまりパクりもやり方次第。芸術に限らず、過去の偉大かつ膨大な知的財産から何も学ばない行為は、ただの独りよがりで終わってしまう。ただし、音楽においては、あくまでうまくパクる事が言外に求められたのもついこの間までで、現在はヒップホップなどで正々堂々のパクりがまかり通っている。彼らは、音楽界に改めて著作権の考え方の議論を再燃させている。まあしかし、実際はそれほど高尚なものではなく、まさに同じ曲のミックス違いだったり、メロディーの音程が全編通じて一定だったりと、いちいち著作権を議論するほどの余地がほとんどないものも多い。「目くそ、鼻くそを笑う」ということわざもあるが、このように今では鼻くそが目くそを笑い返している。→作曲。

はげましけい【励まし系】[名詞]
 つまらないことでウジウジ悩みがちな思春期の青少年向けに作られた、人を励ます内容の歌やその傾向を指す言葉。実は同じようにウジウジ悩んでいる歌い手や作り手の願望であることが多い。「癒し系」と同じく、文字通り人を励ます効果があるとされているが、実際はこれによってかえって落ち込んでしまう場合もある。人を励ます現実的な根拠やとっかかりを明示しているものはほとんどないため、今一つ説得力に乏しく、不景気続きで元気のない大人たちには全然効果がない。私の友人である覆面シンガーは、安易な励まし系を無価値と断じ、人を励ますような「がんばろう」「信じよう」「始めよう」など、のんきで肯定的な語を全て禁句としてしまった結果、厭世(えんせい)的な歌が得意になってしまった。それもちょっとどうかと思う。

はこ【ハコ】[名詞]
 @業界用語で、音楽演奏をするお店を単なる「モノ」として表した語。もちろん「箱」の事。例:「あのハコ良いね」=あそこは良いお店だね(店の作りとか設備などを指して言う)。「ハコ貸し」=お店を貸し切りにすること=ホール・レンタル。カラオケ普及以前、音楽業界が隆盛を極めていた頃、音楽に興じる店では、お抱えバンドが大勢で夜通し生演奏していた。ギャラも良かったらしい。しかし、おいしいハコモノが長続きしないのは建設業界も音楽業界も同じこと。現在、店のお抱えバンドのバンマスは、だいたいお店のマスターも兼任していることが多い。ハコモノ行政という言葉がある通り、ハコにはどことなく「泡銭を稼ぐ場所」というイヤラシイ響きを感じる。しかし、ハコにはヒモは付いてない。ハコに頼りきって生きるのは止めて、お店の方々と節度あるおつきあいをするのがよろしかろう。
 A[固有名詞]山崎ハコ。

はじける【はじける】[動詞](補遺)
 『大辞林 第二版』によると以下の通り。「(1)中身が膨張して割れる。また、植物の実が熟して殻などが割れる。はぜる。(2)勢いよく飛び散る。また、音などが急に起こる。(3)成熟して練れる。世なれる」。しかし、これらの意味のどれにも正確には当てはまらない例が近年急増中。つまり、「羽目を外す」「悪ノリする」のような意味にも使われるのである。特に、学生が学園祭においてよく使う。例:「今日はお祭りだ、さあみんなではじけようぜ!」。これはさすがに「さあみんなで世慣れようぜ!」などとは解釈できんだろう。言葉の意味は、辞書のあずかり知らないところで、どんどんはじけていくものである。

はしる【走る(ハシる)】[動詞]
 @(駆け足で)移動する。人間の場合、歩くことと走ることの間には、非常に厳密な区別がある。移動速度に関わりなく、次の足を地面に着けるまで前の足を離さないのが「歩く」ということだ。つまり、チャック・ベリーの得意なダック・ウォークは、実は微妙に走っているのである。
 A(車や電車などの交通機関が)移動する。たまに、この語の洒落た応用として「風が走る」とか「電気が走る」とか言ったりもする。これらの場合、どんなにゆっくり移動しても「歩く」とは言わない。
 B(音楽のペースが、想定された速度よりもついつい)早くなる。合奏の音楽におけるスピードは、自動車の制限速度とほとんど同じで、実際には周りに期待されている速度に合わせて走行するものだ。バンドのメンツがみんなハシりたがっているのに、一人だけ機械のようにリズム・キープにシビアだと、なぜかイヤな奴だと思われてしまう。いつの世でも、一人で正しいことを貫くというのは難しい。対語:モタる。

はだ【肌】[名詞]
 人体の表面。皮膚。何かを実際に体験することを「肌で感じる」というが、この語は、ライブハウスの恐るべき大音圧にさらされ続けてグッタリしている状況を表すのにふさわしい。耳を塞いでも体脂肪の振動が鼓膜に伝わってしまうので、別に肌が音を感じているとは言いにくいのだが。

はだし【裸足】[名詞]
 素足。何もつけない足のこと。語構成としては「はだ・あし(hada-ashi)」の母音「a」の連続が省略されたと見られる。何もつけない手を敢えて「裸手(はだて)」とは言わないので、裸足は少なくとも人間にとって特別な状態であると言える。しかるに、近年の音楽界では、とある有名アーティストの影響からか、土足を禁じているわけでもない普通のステージで、わざわざ裸足になってから演奏する人がいる。北国に住む私としては、とうてい理解できない風習である。友人の某氏によると、これは自分を解放するための手段なのだそうだ。私から見ると、解放されたのは足だけのようなのだが、その前にまずステージ全体を今一度掃除しないといけないようだ。ガラスの破片で怪我してしまう危険性もあるし、何より「汚い」。と言っても、店の床と彼の足裏、どっちが汚いかはとりあえずノーコメントにしておく。

はな【花/華】[名詞](補遺)
 @(『大辞林 第二版』によると)種子植物の生殖器官。なお、生殖器官というのはつまり性器の穏やかな言い方であるが、植物には残念ながら羞恥心や貞操概念というものがまるでないから、春ともなればもう、ものすごいことになる。かく言う人間の紳士淑女たちは気を付けたいものだ。
 A「高嶺の花」「華のあるメンバー」などのように、「女性」「派手なもの」「貴重なもの」の意味で比喩的に使われる。さらに、より普遍的な価値や幸福感などを象徴する意味で「心の花」「人生の花」のように歌詞にも多用されている。ご存じの通り、同名の名曲がいくつも生まれている。しかし、私の言語感覚においては、ご年輩の方が「オレの人生、もう一花咲かせよう」と意気込む感じが真っ先に思い浮かぶ。最近でも相変わらず出てくる「心の花」系歌詞を聴くたびに、人間の心を表す語彙の貧困さを感じざるを得ない。むやみやたらに心の花を咲かすのもいいが、せいぜいアダ花にならないように。

はなごえ【鼻声】[名詞]
 鼻にかかった声。鼻声は、いわゆる鼻音([n][m])とは限らず、ほとんどの有声音は鼻声になり得る。文字で鼻声を表現するのは難しい。音韻上は、鼻声でも鼻声でなくても同じ文字表記になってしまうからだ。とりあえず、犬が餌や散歩をおねだりするときの、ク〜ンク〜ンという甘えた鳴き声を想像してほしい。鼻声の典型的な例だ。人に甘えたり共感を得ようとしたりすると、なぜかこのように鼻声が効果的に使われる。これはもちろん犬に限った話ではない。恋人や配偶者に淫らな要求をするときや、知り合いに身勝手で無理な頼み事をするときなど、人は鼻で甘えてポイントを稼ぐ。鼻声にはそういう効果があるので、ミュージシャンもよく使う。特にアイドル歌手やビジュアル系シンガーは、鼻が詰まっていたら商売にならない。「唄う」という行為を「鼻声で戯言をぬかすこと」だと思っている人が多いのは、主に彼らのせいだ。

はもる【ハモる】[動詞]
 「ハーモニー(和音)を作る」の略語か。最近の語で、一人の歌に合わせて別の人がそのメロディーに合う形の和音パートを歌うことを指す。ものすごくつまらないメロディーでも、これを付けると少しはマシに聞こえるので、どんな曲でも何とかハモろうとするお節介野郎が増えている。もし「これ、つまらないのかな?」と疑問に思ったら、かけていたCDプレイヤーをいったん止めて、家のピアノで今のメロディーを単音弾きしてみるといい。たいていつまらないはずだ。→コーラス。

ばらーど【バラード】[名詞]
 フランス語の「ballade」が起源で、もともとは定型をもつ抒情詩、または伝説や民話を唄う物語詩だったらしい。バラッドとも。しかし現在では「感傷的な曲」というご存じの通りの曖昧な意味で、巷に腐るほど出回っている。欧米人もさることながら、特に日本人は感傷するのが好きな国民性があるので、まさにバラード全盛状態。バラードが、なかなかオチない異性との妖しい雰囲気作りにも利用されるのはご存じの通り。私は、驚くほど多くの若者たちがバラード好きという状況に、時々ガッカリすることがある。「ボク、バラード好きなんですよ」「(音楽の好みを訊かれて)やっぱりバラード系かな」「浜田さん、バラードっぽいのやらないんですか?」。大きなお世話だ。まだお若いのに、人生を楽しくするはずの音楽で、そこまで進んでヨヨヨと感傷に浸ることも無かろうに。

ぱろでぃー【パロディー】[名詞]
 英語の「parody」。過去の作品の内容や形式を元ネタにして、それを逆手に取ったり、おちょくったり、発展させたりと、おもしろおかしく作り替えた作品。芸術の世界では立派なジャンルの一つで、あの大バッハもパロディーが得意だった。広義には、全ての作品がある意味何かのパロディーだと言える。いやひょっとして、全ての存在は、今一つおもしろくない何かのパロディーではないかと思うこともある。パロディーだと思って見れば、みんなパロディーに見えると言う点を考えれば、この語は「伝承」の俗な言い方だと解釈することもできる。つまり、この世界のほとんど全員が著作権法違反者だと考えてもよい。→替え歌、作曲。

ばんじょー【バンジョー】[名詞]
 英語の「banjo」。奏者はバンジョイストという。もとはアメリカ黒人の民俗楽器だったが、今では白人プレイヤーが圧倒的に多い。4弦バンジョーはラグタイム、ディキシーランドまたはオールド・ジャズでよく使われ、5弦バンジョーはブルーグラスやカントリーでよく使われる。どちらにしてもやたらにバカでかい音が出るので、マイクのない時代には我らがギターをさしおいて主要な撥弦の伴奏楽器だったが、今ではギターの後陣に甘んじている。しかし、弦楽器の勢力争いは現在も続いている。現在人気の高いウクレレに続いて、この楽器も下克上の機会を窺っているかも知れない。まあ、そんなに心配は要らないと思うが。

ぱんだ【パンダ】[名詞]
 @中国の珍しい動物の一種。世界中、どこの動物園でも大人気。
 Aパンダの人気にあやかって作られた慣用語で、「客寄せパンダ」というものがある。ライブや催し物の宣伝のために、有名なもしくは目立つアーティストを呼んで、ちょっとだけ出演してもらうような場合、そのアーティストに対して使われる言葉。パンダになった人は、笹の代わりにちょっとしたギャラをもらって、いい気分。たまに「客寄せパンダにされた!」とか言って怒るような、余計にプライドの高い輩もいるが、彼には笹餅でも喰わしてやればよい。
 B女性のお化粧で、まつげを長く見せるマスカラや目の陰影を作るアイシャドーのようなメイクが、創意工夫や努力のやり過ぎで失敗した状態のこと。この比喩はパンダに失礼である。メジャーなミュージシャンには、ちゃんとメイク担当の人がついているはずなのだが、私の気のせいかやっぱりパンダが多い。芸能人の実社会への影響は絶大なもので、おかげさまでパンダはそこいら中に徘徊し、笹の代わりにケータイを常に握りしめ、発せられる電磁波をバクバク食べている。

ぱんつ【パンツ】[名詞]
 @古い語で、下半身につける短い下着。現代で言うブリーフやショーツ。昔は、男の子の心をときめかせるスケベで罪深い言葉でもあった。成長した女性の下着(昔は特にパンティーと言った)は、男性の下着デザイナーにより表面積をどんどん間引かれていった。
 A新しい語で、ズボンのこと。太股が見えるくらい短いズボンのことをホット・パンツとも言う(しかし別に温度は高くならない)。いつからパンツがこういう意味で使われ出したかはよくわからないが、こちらは丸見えで町中を徘徊しても別に困らない。この新旧語法を取り違えるとえらい恥ずかしいことになるので、特にご年輩の方は注意が必要である。

ばんます【バンマス】[名詞]
 英語の「バンド・マスター band master 楽団長」の略語。つまりリーダー。私はこの略語を、テレビの「欽ちゃんバンド」(「週間欽曜日」という番組内のバンド)で初めて知った。世の中にはいろんなバンドがあるが、残念ながらリーダーの地位は、どのジャンルにおいても年々凋落の傾向がある。この語(直訳すると「バンドの主人」)は、まだジャズ・バンドが大所帯で、リーダーが強烈なリーダーシップを発揮してバンドを掌握・支配していた時代の名残であり、今ではバンマス兼チケットもぎりなどの雑用係、もしくはバラエティー番組担当という情けないリーダーも珍しくない。

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