【へ】
へい【ヘイ】[間投詞]
英語の「hey おい、ねえ、等」。聞き手の注意を呼びかけるような言葉。ミュージシャンのヘイ使用頻度は、特に若向きの音楽を愛好する度合いに応じて高い。日本語で「おい!」などと言われると何か返事がしたくなってしまうが、このヘイも、何か反応が求められているという点がイェー(=yes はい)と異なる。ただし、ヘイに対する返事はいい加減でもいいし、なくても構わない。笠置シヅ子の「ヘイヘイブギ」では、ヘイヘイの後に「ラップダドダド ダドダダ」というワケの分からない返事が来るし、エリック・クラプトンも歌ったビッグ・ビル・ブルーンジー作「ヘイヘイ」では「All I can say is hey 私が言えるのはヘイだけ」という歌詞がある。つまり、ヘイだけ言っていればいいというのである。それもどうかとは思うが、ともかくイェーとヘイの間にある垣根は、案外それほど高くないのかも知れない。へいきんりつ【平均律】[名詞]
『大辞林 第二版』によると以下の通り。「オクターブを平均的な音程に等分割した音律。また、純正律の複雑な各音程を簡便にして実用的なものとした音律。オクターブを一二の半音に等分した十二平均律が、現在広く用いられている」。十二平均律は近代西洋音楽の基盤であるが、これは全く自由であるべき音程の世界を、西洋人の都合のいいように勝手に定義したことを意味する。西洋人以外の耳で聞けば、音に手枷足枷を付けたようなものだ。確かにオクターブを36個とか150個とかに分けたっていいと思うのだが、たった12個の音にだって死ぬほど手を焼いているのに、これ以上増やしても楽譜が見づらくなるだけだ(まあ、私はどうせ見ないけど)。しかしこれは、あくまで基準点の話で、西洋音楽だって中間の音を否定しているわけではない。だから例えば、ピアノにも中間音が出せるように、チョーキング・ペダルでも付いていればいいのだが...。足で力任せにチョーキングを掛けるピアニスト! いいアイデアじゃないか。ギターのように弦が切れたときは、地獄の底で事切れたような音になるだろうが。参考:→純正律。へいわ【平和】[名詞]
戦争がない状態のこと。対語:「戦争」。ただ、曲がりなりにも戦争していないというだけでは、平和とはとても言えない場合もあるので、ちょっと微妙。多くの国にとって平和は、悲しい戦争の犠牲の上に成り立っている。確かに、戦争がなければ「平和」という概念も出てこなかったに違いない。しかし、この経緯を悪用して「平和のために戦争しなければならない」と理屈を言うのは、「退院するためには入院しなければならない」と言っているのと同じ事だ。→ピース。べーす【ベース】[名詞]
@英語の「base 基礎、土台」。例:「このアレンジは、彼のイメージをベースとしている」「この曲は、彼の名曲がベースになっている」。つまりパクリの上品な言い方。
A英語の「bass 低音」。これを「ベース」と発音するのは英語だけらしく、他の言語では普通「バス」という。日本でベースという言い方の方が一般的なのは、「omnibus (乗り物の)バス」との棲み分けが計られたためだろうか。しかし日本でも、特にきちんと楽典を勉強した人は「バス」と言う事が多いので、わざわざ慣れない「バス」を使って通ぶる人も散見される。
B英語の「bass ベース(楽器)」。ジャズなどで使われるダブルベースから現代のベースギターまで、低音を担当する弦楽器の総称になっている。奏者はベーシストという。もちろんベース(A)と同じく「バス」とも言うが、その場合はコントラバス(=ダブルベース)やチューバのような管楽器など、主にクラシック界またはオヤジ界での呼称となる。ややこしいな。コードの基礎となるルート音や、リズムの基礎となる強拍を支配するベースは、音楽の進行を決める最重要楽器。その重要度は、会社で言えば総務部、PCで言えばCPU、オーケストラで言えば指揮者、共産党で言えば書記長にも匹敵する。そのため、バンマスがベーシストというバンドは数知れないが、結局リード楽器の陰に隠れた日の当たらない一生を送るので、重要な役どころの割にはいまいち評価が低い。→ルート。ぺーすめーかー【ペースメーカー】[名詞]
英語の「pacemaker 速度調節者」。一定のリズムを生み出す者。しかしバンドのドラムスのことは、なぜかあまりペースメーカーとはいわない。最近のヤツらはやかましいだけで、一定のリズムを叩けない人が多いからだろうか。マラソンの先導者のことなどもこう呼ぶが、真っ先に思い浮かべるのは心臓に付ける生命維持装置の一種(脈拍調節器)。私の知り合いのおばあさんも、昔コレを付けていたと記憶している。これを付けている人は、現在街なかを歩けないし、もちろん電車やバスにも乗れない。ケータイという「ペースブレイカー」を持った、無垢な暗殺者がいっぱいいるからだ。ケータイの普及率増加に伴い、首都圏の主要な交通機関は生命の重さの再解釈を行ったらしい。私に金と時間が腐るほどあったら、まず最初に彼らを訴えたい。べすとあるばむ【ベストアルバム】[名詞]
過去発表したアルバムやシングルなどの音源の中から、いい曲を集めて作る編集盤。ベスト盤とも。いい曲といってもヒット曲でなくてもよいし、過去のアルバムは最低二枚くらいでもよい。たまに再録音があったり未発表曲があったりするので、熱烈なファンはそれを目当てにしぶしぶ買わなければいけなくなるという、抱合せ販売の側面がある。曲の作成に新たな投資も時間もあまり要らないため、ベストアルバムの利益率は非常に高い。レコード会社が厳しい売上にもめげず通常のアルバムをしぶしぶ出しているのは、実はベストアルバムを作るためなのかも知れない。その証拠に、昔のアーティストのCD棚を見ると、ベストアルバムくらいしか見あたらないではないか。へたうま【ヘタウマ】[名詞/形容動詞]
技術的にはそれほど上手いとは思えない(むしろ下手に聞こえる)のに、なぜか全体的には上手く聞こえるという、個性的なセンスを持つ演奏やその演奏家を評して言う。「実は上手く弾けるのに、わざと下手に弾いている」「能ある鷹が爪を隠している」という解釈が一般的だが、本当はやっぱり真の意味で間違いなく下手くそな人の場合も多い。へっど【ヘッド】[名詞]
英語の「head 頭」で、もちろん頭のこと。暴走族のリーダーのことなどもこう言うが、音楽関連で言えば、通常のギターの駒板(糸巻きが付いている板)を指す。ギターは古来から女性に例えられてきたが、これに従って解釈していこう。するとギターは、糸巻きという6つのヘアピンや貝の装飾が付いている頭(ヘッド)に、20個近い首輪(フレット)を着けたやたらに長い首(ネック)というところがオシャレではあるが、心にはポッカリと穴が空いている悲しき貴婦人である。やさしく抱きしめて、貴方の指先で愛を奏でて彼女の心を埋めなければいけない。しかし叩き系ギタリストは、心を埋めるどころか妙なやり方でくすぐったり理不尽な暴力を振ったりするので、彼女たちに嫌われている。ちなみに「下着」に当たる部分は、表面板の裏に付いているブレイシングという木の枠だろう。スキャロップト・ブレイシング(表面板の振動を増やすために一部削られたブレイシング)は、きわどいビキニといったところだろうか。ブレイシングの形を確かめようとしてサウンドホールに手を突っ込む人がよくいるが、これはチカン行為なのでギターのオーナーには不評である。ではブリッジやサドルやピックアップは何に当たるかというと...いや、もうこの辺でやめとこう。へんきょく【編曲】[名詞]
あるメロディーや曲を基に、一曲としての構成や楽器の配置などの体裁をまとめ、実質的に演奏可能にすること。英語では「アレンジメント arrangement」、略してアレンジと言う。たとえ全く楽典の知識が無くてもできる作曲に比べると、技術的にやや高度な作業といえるが、実は作曲と編曲の関係はかなり微妙で、両者の区別は曖昧である。センスのある編曲こそが音楽の決め手だという人もいるし、元の曲が良くなければダメなのだから作曲のひらめきこそが大事だという人もいるし、両者が本質的には同一だと説く演奏家もいる。作曲と編曲は、近しい行為であるが故に軋轢も生み出す。編曲はできないけど作曲はできると言う人は、実は内心でインテリの編曲家をバカにしていて、作曲はできないけど編曲はできると言う人は、内心では無学な作曲家をバカにしている。その争いは、メロディーの枯渇が言われて久しい中、今では編曲家が若干優位に立っているようだ。本来、作曲家は編曲家のクライアント(依頼主)のはずなのだが、どうにも不思議な関係である。最近ではポピュラー音楽を中心に、過激で浮いた感じのアレンジを施された曲が多いが、あれは純粋にメロディーを生かそうとしてそうなったのではなく、作曲家VS編曲家の、音楽業界の主役の座を巡る覇権争いが行われているに他ならない。まあ、どっちもどっち。味平がカレーに入れた醤油のように、ケンカして一晩して仲直りしなきゃダメ。