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【め】

め【目/眼】[名詞]
 ものを見る身体器官。転じて観察眼のことなども表す。音の芸術である音楽と直接には関係がないはずだが、実は意外とおしゃべりなヤツで、口ほどにものを言ったりもするし、ひょっとしたら歌でも唄うのかも知れない。人の目を見て話すというのは、社会人や詐欺師の基本。説得力の無さをまじめそうな雰囲気でカバーできるからだ。広い会場では、ステージから客席のお客様はあまりよく見えないはずなのだが、アーティストはノリが悪い客の目をギロリとにらみ返して非難する。拍手が少ないと彼はなかなかその目を逸らしてくれないので、うっかりあくびもできない。仕方なく客席のノリが回復していく。逆に、押し黙って自分の指先ばかり見ているソロギタリストからは、客の目は自然に離れていく。

めいき【名器】[名詞](補遺)
 『大辞林 第二版』によると「すぐれた器物・楽器。有名な器物・楽器」。見出し語は「名器」のみである。近年使われている「銘器」という表記は、日本語として間違いであることを認識してほしい。この「銘」という字は、そもそも碑などの固いものに彫り込まれた文やサインを表す言葉であるから、理屈では、銘が打たれていればみんな銘器になってしまう。こういう表記ミスが起きたのには、おそらくそれなりの理由がある。つまり、いかがわしい小説などに登場する隠語としての「名器」の意味をよく知っている生真面目なライターが、それとの混同を避ける意味で言葉をすり替えたのだろう。

めいきょく【名曲】[名詞](補遺)
 @有名な曲。特に、世代を越えて親しまれ、人の記憶に残る曲をこう呼ぶ。ある曲が名曲の名にふさわしいかどうかは、長い時間が決める。仮に一時ヒットして有名になっても、だいたい3年くらい経過するとまるで覚えていない曲の何と多いことか。現代は、記録媒体が発達しすぎて、別に覚える必要も減少しているため、その意味ではなかなか真の名曲が生まれにくい。
 A優れた曲。@とは本質的に全く異なる定義である。その曲のどこが優れているかは、アーティスト、ファン、そしてレコード会社の宣伝部長の価値観に委ねられている。例:「隠れた名曲」(しかし名曲とは本来、隠れないものである)。「早くも名曲との評価が」(ということは、そう決めるにはまだ早いのである)。優れた曲であっても、残念ながら有名な曲にはなり得なかった例が、ご承知の通り無数にあるため、この定義はそれらに対する救済措置と言える。なお、アーティスト本人が、自分のある特定の曲を名曲扱いすることもあるが、言葉の用法として間違っている。この名詞は誉め言葉であるから、「天才」とか「美男子」などのように、自分以外の人に言ってもらわないと意味をなさない。

めたる【メタル】[名詞]
 @英語の「metal 金属」。
 A英語の「heavy metal ヘビー・メタル・ロック(ハード・ロックの一種)」の事。1970年代に始まり、意外と長く流行している。この音楽が文化としてなかなか廃れないのは、ファッション界も巻き込んだ多角経営を目指したからだと思う。メタルという語は、ギターリフの金属的な響きから名付けられたのか、その独特の硬質なファッションやホラー映画じみたハードな演出に由来する名なのか、今一つ語源がはっきりしないが、演奏者も愛好者も一目でそれとわかるようなロクでもない格好をしている。この音楽が嫌いな人は、彼らの文化全般をあざけりの意味を込めて「ヘビメタ」と略することが多い。例:「あのヘビメタくん、バイトやる気あんのか?」。彼らは、現代日本のヴィジュアル系アーティストの祖先、いや(そこまで歴史無いから)叔父とも言える。甥っ子の教育はそれほどうまくいかなかったようだ。→ビジュアル

めんばーしょうかい【メンバー紹介】[名詞]
 ステージで、バンドのメンバーを一人ずつ紹介すること。特にジャズでおなじみの微笑ましいセレモニーである。紹介の順番とバンドにおける地位とは必ずしも関係がないが、中には気にする人もいる。大編成のビッグバンド・ジャズでは、紹介だけでワンステージ終わってしまうので、適当なところでさっと終わらせる。クラシック界でも取り入れれば面白いと思う。死ぬほど退屈な時間の息抜きになり、気が紛れるだろう。なお最近では、これをたった一人でやってしまうギタリストもいる。彼のバンドは解散の危機とは無縁である。

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