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【な】

な(なまえ)【名(名前)】[名詞](補遺)
 あるものに固有の呼び方。人間の場合には、狭義には苗字(ファミリーネーム)に対する名前(ファーストネーム)を指す。→名字(苗字)。名前は、名付け親の世界観をも表し、また付けられたモノの存在やそのあり方を規定(特定)することになる。そのため、時にはプライドと同義にもなる。例:「名こそ惜しめ」「名をあげた」。さて、現在の流行歌詞の用例では、「名も無き花」「名前のない街」のような構文がよく使われる。これは、もちろん「あまり有名ではない」という意味で使われているのだが、実はそれだけでない。対象を具体的に特定しない、つまり具象名詞を抽象化するための枕詞として、ロマンチックな雰囲気を演出する効果もある。しかし、昭和天皇が似たようなことをおっしゃられていたと記憶するが、この世に「名も無き花」なんてない。もしあるとすれば、それには名前が要る。そうでなければ、たとえ存在していても存在していないのと同じ事。たいていの人は、ただの勉強不足でそいつの名前を知らないだけなのだ。この種の正確性を欠くロマンスには、そろそろアカデミックな批判が必要かも知れない。ちなみにこの前、とある歌詞で「名前のない空」というくだりが出てきたのを聞いたが、空は空。名前が無くて当たり前なのは言うまでもない。

なうおんせーる【ナウ・オン・セール】[慣用句]
 英語の「Now On Sale 発売中」。「イン・ストアズ・ナウ In Stores Now」とほぼ同義。こちらの方が歴史が古いが、英語という点では五十歩百歩。

ながれぼし【流れ星】[名詞]
 ロマンチックな夜空を彩る天体現象。地球自身から見たら、飽きるほど繰り返し落ちてくる危険物以外の何物でもない。これが消えないうちに三回願いをかければその願いが叶うという迷信により、多くの子供たちが不必要なほど早口になった。あっという間に現れては去っていった恋人のことを、歌詞の中でこう表現することもある。その人、こんなカッコイイ言葉でたとえられてしまっては、後でノコノコと出て来にくいだろうから、絶対によりを戻すことのない相手に対象を限定すべきである。

なげせん【投げ銭】[名詞]
 芸のお捻りとして投げられたお金のこと。転じて、投げ銭をいただくために芸をすることも指す(「投げ銭活動」の略ともとれる)。例:「今日、浜田クン投げ銭やるの?」。この場合、別に私が誰かの所へお金を投げに行くわけではない。現実では、文字通りお金をえいっと投げつけるような景気のいい人は希で、普通はポケットからチャリンと落とされるものだ。ご年輩の方は、投げ銭とお賽銭の区別が付いていないので、投げてから拝む人もいる。その適正な額については誰しもちょっと悩むところで、定説はない。チップ制度のない日本ではなおさらやっかいだ。私の希望としては、大の大人が1曲聴いたのならせめて缶ジュースが買えるくらいの額は投げてもらいたいところだが、それどころかほとんどの人は時間すら恵んでやるのがもったいないらしく、5秒も立ち止まってくれない。普通は、聴き手の感動の量に比例して金額が大きくなると思われがちだが、そんなこともない。30分まじまじと聴いた人が何も投げずに帰ってしまう時もあるし、逆にほとんど何もしてないのにいきなり千円札をくれる人も昔はいた。ストリート・ミュージシャンが職業である以上、こうしていただいた投げ銭は、必ず税務署に申告しなければならないことは言うまでもないが、律儀にそんなことをしているバカ正直は私くらいかも知れない。なお、日本は硬貨の流通が多い一方、紙幣は比較的高額(千円札から/アメリカでは1ドル紙幣から)なので、芸人にとってはちょっと都合が悪い。紙幣の方が、お客の「いいことをした!」という不思議な充実感も、芸人の「すげぇ、紙でくれるなんて!」という見かけ上の満足度も大きいのだ。

なつめろ【ナツメロ】[名詞]
 「懐かしのメロディー」の略語で、古い流行歌のこと。何でも略する日本語の悪い癖が、ここにも端的にズバッと現れている。昔のヒット曲に頼るベテラン歌手のことを「ナツメロ歌手」ともいう。ご年輩の聴衆の多くは、別に「音楽」が聴きたいわけではなく、ナツメロを聴いて昔の想い出に浸りたいだけである。数え切れないほど多くの有能なミュージシャンが、自らの新しい音楽的才能を発揮することなく、こういう他人の想い出につきあわされている。

なみだ【涙】[名詞]
 悲しい時、非常にうれしい時、感動した時など、感情の起伏によって涙腺から分泌される不思議な体液。涙を「心の汗」と表現する人もいるが、心は寒くても涙を出すことができる。「心の冷や汗」というのも何か変なので、やはり適切な比喩ではない。涙は血や汗と共に、人間の艱難辛苦(かんなんしんく)を表す象徴語でもある。あくびや目のゴミなどによって反射的に出てくる涙は、これと区別される。ただし、涙はあくびと同じく人から移る(もらい泣きする)ことがある。感情によって涙を流す行為を「泣く」という。人間は泣くことができる唯一の動物だが、残念ながらウソ泣きできる唯一の動物でもあり、善悪は別にして後者の方が精神的に高度なテクニックを必要とする。一体悲しいのか逆にうれしいのか、涙の真意を推し量ることができない場合もあり、涙の解釈は想像以上に難しい。歌の世界では、涙は女の専売特許だが、この前、女性国会議員がインタビューで泣いたとき「涙は女の武器」なんて言ってひんしゅくを買った人がいた。歌はともかく、現実の女性に対しての発言には、腫れ物に触るようにして、どんな言葉を使うのでも一通り注意しなければならない。

なやむ【悩む】[動詞](補遺)
 困難や苦難などに直面し、思い煩う。人間は、その脳の大きさに見合うかそれ以上に、いろんな事でくよくよ悩む宿命にある生き物である。その悩みは、人に聞かせて認めてもらうことによって幾分和らぐこともあるが、そうは簡単に解決しないからこそ人は悩む。こうした、人間の宿命的な悩みを表した叙情歌は、もちろん古今東西数知れないのだが、どういう訳か近年のJ−POPにおいてはまれにしか見いだせない。「悩むな」「がんばるしかない」「はりきっていこうぜ」「強さをキミがくれた」「ボクはここにいるよ」など、どうも赤ちゃんをあやすような歌が多すぎるのだ。全然悩まない歌、悩ませてくれない歌が多いのは、少なくとも私にとってはむしろ悩みの種と言える。

なりもの【鳴り物】[名詞](補遺)
 @楽器の総称。その中でも特に打楽器や管楽器を指すことが多く、つまり「やかましい音を出すもの」と捉えた方がより適切だ。タンバリンやカズーは、その意味で最も典型的な鳴り物。その音波は人間の声よりもはるかに遠くまで届くため、場合によっては周りにかける迷惑の度合いも高い。二人組のストリート・ミュージシャンは、一人がギター、もう一人がこの鳴り物担当だったりするが、世界平和のためにもぜひやめて欲しい。
 A「鳴り物入り」という慣用句で使われ、デビュー前の宣伝が派手であることを表す。例:「鳴り物入りでデビューしたのに、パッとしない」。鳴り物を鳴らすなとは言わないが、失敗したときの経済的損失も考えて、なぐさめが出来る程度の節度を持ってほしい。

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