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【さ】

さいさん【採算】[名詞]
 経済的に不利益にならない見通し。最低水準。少なくとも元が取れること。実質的には、予算額と見込額との差を表す時に使われる。例:「このままでは採算が合わない」。さらに、ある人にとっては熱意と失望の分岐点も指す。例:「採算が合わないのなら止めましょう」。採算は、経済的なことを気にする常識人にとっては足かせとなるが、度外視することで対象に対する愛情の強さを再確認するセレモニーともなる。例:「採算が合わないのは仕方ない!」。やりたいことができないことの方がよっぽど不利益だと思う殊勝な人がいないと、マイナーな文化は伝承の機会を失うことになる。

さいだいこうやくすう【最大公約数】[名詞]
 @複数の整数を割り切ることができる整数の中で最大のもの。例:「質問、20と12と8の最大公約数は?/答えは4、だよね(あんまり自信ない)」。これが一体人生にとって何の役に立つのか、齢(よわい)39年(編注:2004年当時)を経た現在も私にとっては不明である。
 A(@)から意味が転じ、様々な違いを持つ複数の存在の中で何とか共通すると言える部分、特に共通の利益や嗜好を指す。算数が苦手な人も、マーケティング戦略について考えれば割とわかりやすい。例:「至急アンケート調査を行い、この年齢層の好みの最大公約数を割り出せ」。歌の世界では、一般ウケするような歌詞の最大公約数を狙うと、その主張に当たり障りがなくなり、ひいてはどの歌詞も似たり寄ったりになってしまう。最終的には個人的な心情を唄うのが歌の醍醐味なのだから、作詞家はあんまり世代の代弁者ぶらない方がいい。我々は方程式で解ける因数ではなく、割り切れない素数の部分集合なのだ。

さぎょうおん【サ行音】[名詞]
 「さ(sa)」「し(shi)」「す(su)」「せ(se)」「そ(so)」の五音。なぜか「すぃ(si)」という発音は日本語にない。子音の「s」は歯擦音としてしばしば耳障りな音になるため、これを低減するための「ディエッサー de-S-er(エス S を低減するもの)」というエフェクターがある。日本語東京方言においては「し(shi)」が「sh」という子音に簡略化されることが多い。これはいいとして、早口の歌手が言葉をむやみに詰め込んだオリジナル曲を歌うとき、母音の子音化、特にサ行音の子音化が顕著になるという、近年になって特に注目すべき現象がある。母音までいちいちはっきりと発音していたら、メロディーに収まらないのである。具体例を挙げると角が立つので、とりあえずミスチ○(以下略)の歌を思い浮かべて下さい

さくら【サクラ】[名詞]
 @桜。バラ科サクラ属の落葉高木または低木(『大辞林 第二版』より)。
 A投げ銭活動などで、パフォーマーとグルになって、客のふりをして通行人をあおる憎たらしい人のこと。ストリートにおいては特に学生がよくやるが、同じ年頃だし何度見ても長時間同じ顔ぶれなので、サクラだと一発でわかってしまう。そんなバレバレのサクラに負けると、とてもくやしい。結局、人は人のいっぱいいる場所に群がるものだ。

さけ【酒】[名詞]
 いろいろな種類があるが、とどのつまりアルコール飲料の総称。多くの歌のサブ・テーマでもあり、モチーフを生み出す触媒でもある。不景気な時代には、いつも大衆の平均酒量が減少している。自分の金銭について冷静な判断力を維持するのは、世の中にとって良くないことである。酒は、多くの人の生き方に関わり、場合によっては狂わせている。酒を聴衆の側から見れば、退屈なライブの鑑賞に何とか耐えきるためにあおる気付け薬。しかし、いつも酒に飲まれているようなだらしないお客から誉められても、ミュージシャンはあんまりうれしくない。多分夜が明けると、ここで何が起こっていたかも忘れているだろうから。酒をミュージシャンの側から見れば、客や恋人たちの冷静な判断能力を奪うための撒き餌にあたるが、自分がその撒き餌に掛かってしまうこともある。酒は百薬の長、かつ緩慢な劇薬でもあり、これで身を持ち崩したミュージシャンは数知れない。自分が酔っぱらっていることを強調しながら演奏する、まさに自己陶酔型の歌手もいるが、お客の目はそういう時に限ってシビアであることを心得た方がいい。もちろん酒は、お店の側から見れば主要な商品。取るに足らない持ち込みCDの売れ行きなどよりも、ビールサーバーの減り具合が気にかかるところだ。

さっきょく【作曲】[名詞]
 意識的、または無意識的に過去の膨大な音楽的資産を拝借して、自分なりの曲を作ること。もっと直接的に言えば、他人はもちろん自分にすらばれないようにうまくパクること。そうでない作曲(例えば十二音音楽)は独りよがりで、偶発的で、ただの方法論の実践で、だいたいつまらない。音楽が作曲者だけの才能や努力で生まれるものという思想には、もともと無理がある。著作権管理団体は、この文化的な真理を考えないようにしているらしい。過去の著作物が現在のものに与えた影響の程度までは管理できないからだ。ある曲がパクりか否かということを、よく裁判で争うこともあるが、これはやり方が下手なペテン師を、うまくやったペテン師がやりこめようとしているだけの話。裁判に大敗したジョージ・ハリスンはちょっといい人すぎた。自分の権利に関する裁判が大好きなアメリカ人は、Abのコードやモード奏法にまで特許を出願してしまいそうだから怖い。→パクる。

さんこうにする【参考にする】[名詞+格助詞+動詞]
 →パクる。

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