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【せ】

せいこう【成功】[名詞]
 何かの目標や計画を成し遂げること。音楽業界ではたいてい経済的成功や名声の獲得を指し、男女間では子どもを授かる可能性が発生したことを指す(...漢字が違うか)。

せいじゃく【静寂】[名詞]
 音もうごめくものもなく、全く静かなこと。静寂は、お盆の過ぎたお墓。静寂は、ただ眼前に広がるススキの原と銀河の夜。静寂は、クラシック・コンサートの開演前。ただしセキのうるさい人もいるが。静寂は、笑うに笑えないギャグの通り過ぎた後。静寂は、最少客数記録を更新したライブの反省会。静寂は、神の与え賜うた「発音」と対極に位置する「無音」の状態。音楽は、「発音」と「無音」の両方を使う音の芸術である。この静寂をよりしつこく厳密に解釈し、大胆に使った音楽作品に、ジョン・ケージの「4分33秒」(1952年初演)という3楽章からなる名曲がある。この曲の演奏者は、ほとんど何もせずに4分33秒の緊張に耐え切らねばならない。こんな音楽はおそらく人類史上初めてで、人をバカにしているのではないかと思えるくらい革新的だった。人間の精神文化は、ついにこの曲を理解するまでの高みに至った。ただしこの曲は、子供でも弾けるし、話の種以上に感動できる何かを提供しないし、おそらく30秒くらい省略して演奏しても、時計とにらめっこしていない人には分からないと思われる。初演は、コンサート会場ではなく、ストリートでやるべきだった。この手のキワモノ音楽は別にして、普通の音楽は静寂を完全に支配するわけではない。観客の支持を得られない音楽は、沈黙どころかブーイングとともに駆逐されるし、思いも掛けず鳴ったケータイ着信音で名演奏がぶちこわしになるときもある。どこに行ってもしゃくに障るような言葉や音楽に出くわす現代社会では、逆に静寂に耐えられない人も増えているので、テレビやラジオなどの気晴らし道具は社会の必需品。文明社会は騒音だらけ、静寂を好む人が最後に行き着く先は、険しい山、人気のない林、そして無人島である。「無人島に持っていく一枚のレコードを選ぶとしたら何?」という質問が流行った時期があったが、電柱やコンセントのない無人島で、無理矢理オーディオ装置を鳴らして貴重な静寂を壊そうとする願望には、あまり感心しない。

せーは【セーハ】[名詞]
 フレット弦楽器の複数弦を指の腹や側面で一括して押さえること。スペイン語の「ceja」。もとは眉という意味で、本来はフレット全体に掛かるカポタストなどを指したらしい。これをフランス語で「バール barre」つまりバーともいったらしいが、このバールをそのまま英語読みした「バレー」という名称も、セーハと同じく奏法を表す意味として分化したらしい。この少々入り組んだ言葉の成り立ちから、主にクラシック界でセーハ、ジャズ界などでバレーと称する割合が多い。全弦を押さえるのを「大セーハ」、一部を押さえるのを「小セーハ」ということもある。ギターで言えば、大セーハをするコードの代表格「Fコード(1フレットセーハ)」を押さえられるかどうかが、ギターとうまく付き合っていけるかどうかの試金石の一つである。しかし、一部のブルーグラス演奏者には大セーハは疎んじられ、別の押さえ方が採用されている。鉄弦ギターでのセーハの多用には、尋常ならざる握力が必要となるので、私は学生の頃、武道家のようにゴムマリや港湾労働のアルバイトで握力を鍛えた。このテクニックの名称は、セーハであれバレーであれバールであれ舞踏会のように優雅な響きをもつが、実際はこのように汗まみれの体育会系的な側面がある。

せかい【世界】[名詞]
 @この世の全て。場合によっては、あの世も勘定に入れる。
 Aある事柄について、その属する領域全体を指す。何かをジャンル分けする際の単位としても機能する。例:「ギターの世界」「プロの世界」「犬の世界」「SFの世界」。
 B自分と関係のある国々、特に西側諸国を指す。「世界同時発売」「世界的に認められた」などの用語で使われる際の世界は、実はこれである場合が多い。もっとはっきり言えば、ただアメリカ一国を指す場合もある。例:「メジャーリーグのワールド(世界)チャンピオン」。擬人化表現も例が多く、「世界が泣いた」「世界が驚嘆した」などと言い回すことが可能である。それはいいけど、世界って多分もっともっと広いよ。

ぜったいおんがく【絶対音楽】[名詞]
 曲に名前(標題)を付ける「標題音楽」に対して、標題のない音楽を指す。つまり名無しである。絶対音楽を呼ぶのに適切な言葉は、作曲者や作品番号、そして音楽や調の種類などである。例:「ベートーベンの交響曲第五番、ハ短調 作品67」(この作品を「運命」と言うなかれ)。標題のない音楽に絶対的な価値と芸術性を認定して「絶対音楽」などと言い出した人は、よっぽど曲にタイトルを付けるのが嫌いだったと思われる。しかし、例えば絵画の世界では、標題を付けることは芸術家にそこまで忌み嫌われていない。無題すら立派な標題と見なされるのだ。絶対音楽はさらに、歌詞を伴う「声楽」に対して、歌詞のない(歌のない)音楽のことも指すようだ。ベートーベンの交響曲第九番は、最終楽章に音楽史上最も感動的な合唱が付いたことがアダとなって、歓喜と共に絶対音楽の座から滑り落ちてしまったことになる。→純音楽。

ぜんぶ【全部】[名詞/副詞](補遺)
 選択・特定・考慮されたものの全て。例:「彼(彼女)のどこが好き?」「全部好き!」。彼(彼女)を選んだということ以外の知性が全く働いていない、動物的な状態。

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