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【と】

といき【吐息】[名詞]
 切なく息を吐くこと。また、切なく吐いた息のこと。ただ息を吐く通常の呼吸や深呼吸とは違うことに注意。吐息は、気体のはずなのになぜか色があるとされている。「青色」の場合は、率直に言えば経済的な行き詰まりを表す。青色申告とはまるで意味が違うが、実は表裏一体の関係らしく、申告も吐息も深刻なまでに青色という事業主は多い。「桃色」の場合は、異性を悩殺するためのテクニックの一つだが、頼むから二度とやってほしくないという人もいる。何度も何度もJ−POPの歌手にご登場いただくのはとても恐縮だが、この分野では桃色の吐息を効果的に歌唱に取り入れる人が近年急増している。効果的過ぎて、聴衆は同性まで含めてメロメロのドキドキ状態。一人、もしくは恋人と一緒に聴く分には別に構わないが、家族や田舎のおばあちゃんと一緒に聴くのは気恥ずかしすぎる。つまり、お茶の間向けとは言えない歌唱方法。

とうきょうと【東京都】[固有名詞]
 日本の首都。とても文化的な街で、日本で一番最初に大道芸人へライセンスを交付した。代わりに、ライセンスを持たない芸人には情け容赦のない弾圧を加えている。どこから来たとも知れない鳥の群れには楽しそうに餌を与えるくせに、日銭も稼げない哀れなストリート・アーティストの群れには餌どころか苦々しく唾を吐き掛ける、変わった人たちが住むところ。

とうしんだい【等身大】[名詞/形容動詞](補遺)
 自分の現状において無理がなく、身の丈に合っている様。ありのまま。模型のサイズで言えば1/1。特に駆け出しのアーティストを評する際、良い意味で使われる言葉である。しかし裏を返せば、現時点では特に驚くべき才能を感じないということも表しているため、あまり効果的な誉め言葉ではない。言う方も言われる方も注意したいものだ。ところが、自分で自分の作品を等身大扱いするアーティストもいる。例:「等身大の私を表現しました」。こういう言葉で表現される作品は、見たり聴いたりする前からつまらないと予想されても仕方がない。仮にもアーティストならもっとハッタリを効かせ、今の自分より大きい存在を目指すべきである。

とうめいぷらけーす【透明プラケース】[名詞]
 CD用のプラスチック・ケースのうち、盤を収める底板が透明なものを指す。一昔前まではほぼ黒一種類しかなく、選択の余地があまりなかった。透明プラケースはあったとしてもオプションであり、黒ケースより高額だった。これは、裏ジャケットの両面に趣向を凝らせるため、少しでもクライアントにいい所を見せたいデザイナーたちが盛んに使いたがった。しかし今ではこれを使うのが当たり前になり、パソコンCDR用のケースすら透明になってきているので、ありがたみが極端に減少している。否、むしろ、はたと気づいてみれば、あの黒ケースは一体どこに行ったのだろうか。

どさ【ドサ】[名詞]
 もとは地方や田舎を表す俗語らしいが、主に「ドサ回り」というあまり上品とは言えない慣用句で使われる。ライブで活躍する歌手は、たとえ冗談めいたMCであっても、決してこの言葉を使ってはいけない。田舎扱いされたお店は当然面白くないので、次からは彼をステージから締め出すだろうから、新たな田舎を探す必要に迫られる。

とちる【トチる】[動詞]
 ミスをする。日本語には、「間違える」という意味の語彙がいっぱいある。偉大なる日本の先人たちは、いろんなせせこましい言い方を場合に応じて使い分け、何とかミスを勘弁してもらおうとしたのだろう。この語には、「本来はできるのだがたまたま間違えてしまった」「取りこぼした」のようなニュアンスがある。それは結構なことだ。では、この語を持ちだして言い逃れようとする人には、トチらない本来の演奏ができるまで、厳しく「ダメ出し」した方がよい。

とっぱらい【取っ払い】[動名詞]
 ギャラを当日現金で渡す(またはもらう)ことを表す甘美な言葉。日雇い労働は皆これだ。給与窓口にたむろする貧乏人たちが煩わしいので、なけなしの金を渡して追っ払うという意味から来たのだろうか。その他にも後日に口座振替で処理されることもあるが、もらったという満足度においてこれに勝る方法はない。この言葉の語感について、私は一種の酔っぱらったような陶酔感を感じる。

とばり【(「帳」など)】[名詞]
 もとは室内を区切るために垂らした布のことだが、わざわざ区切らずとも狭っちい2LDKが当たり前となった現代では、夜が更けたことを表す「夜のとばり(が下りる/に包まれる)」という慣用句でしか使われない。この句には、何となくセクシーな雰囲気があり、下心丸見えのムード歌謡の世界では多用される。しかし不夜城と化している大都市では、とばりくらいでは光が十分に遮れない。

ともだち【友達】[名詞]
 @仲のいい、しかし良すぎない人。つまり親友ほどには親しくなく、見知らぬ人ほど疎遠でもないという、かなり微妙な関係の人。親友以上に仲が親密だと、やがて裏切るか、結婚するか、倒錯するかしかなくなってしまう。この語は、元々「友(とも)」の複数形が慣用的に単数の場合でも使われるようになったものである。これは「子供」と似たような現象だ(親が自分の一人息子[または娘]を「私の子供(こ・ども)」というのは本来おかしい)。歌詞の世界では、本来の単数形(友)の方を「無二の親友」のような意味の呼び掛け語としてよく使う。しかし、ちょっと時代を感じることもあって異様に照れくさい。例:「我が友よ、夜空の向こうに明日がある」「サキクマセ我が友」。もし私が彼の「友」ならば、しばらく一人になって頭を冷やしてくるところだ。
 A(友情の有無に関わらず)こんな所でケンカされたら困る人達。幼稚園の保母さんにとっての園児たち、飲み屋のカウンターに座っているお客さん同士など。

とらいあんぐる【トライアングル】[名詞]
 英語の「triangle」。
 @三角形。
 A打楽器の一種で、その正体は三角形に曲げた金属の棒である。糸で吊して金属の棒でチンチンと鳴らす。学校の授業ではカスタネットともに大人気の楽器だが、卒業と共に見向きもされなくなるかわいそうな奴。あまりにも出番が少ないので、プロのトライアングル奏者はついでにティンパニなども叩かなければならない。

どらむ【ドラム】[名詞]
 英語の「drum 太鼓」。ジャズやロックなどで使われるドラムセットを表す。奏者はドラミストとは言わず、ドラマーという。なお、英語では単数形ではなく普通「ドラムス drums」という複数形を用いるので注意されたい。スネアしか叩けないようなぶきっちょなドラマーは、多分使ってもらえない。

とわ【永久】[名詞/形容動詞](補遺)
 =えいきゅう。永遠。いつまでも変わらないこと。大仰で詩的なセンスをひけらかしたいときに使われる古語。多くは語り手のはかない希望、または自己陶酔を表す。例:「この歌よ永久に響け」←音波はすぐ減衰します。「○×よ永久に」←死んでから言っても遅いです。「永久に武力を放棄する」←いつか憲法が改悪されます。ロマン派には申し訳ないが、この言葉が出てきたらまず発言者の現実感覚を疑うべし、という恰好の目安になるだろう。→永遠。

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