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【つ】

つあー【ツアー】[名詞]
 英語の「tour 観光旅行、巡業」で、音楽の場合は演奏旅行を指す。ライブをやりながらあちこちの町を巡るというもので、基本的にはとても楽しいもののはずだが、興行的に芳しくないと足取りが次第次第に重くなっていく。ついにイクところまでイクと、むしろ「せっかくだからせめて旅を楽しもう」という通常の行楽感覚が働き、無駄遣いを意に介さなくなってくるため、ますます貧乏旅行となる。行楽と商売の間で揺れ動く根無し草は、そんな訳で今日もイクところまでイこうとしている。

つあーたいとる【ツアータイトル】[名詞](補遺)
 英語の「tour title 巡業の題名」。毎年毎年ただツアーをするだけではいつもと同じだと思われてしまうため、何か新しい目立つイメージを作るために付けられたキャッチコピーの一種。このタイトルが付いていないと、「今回のツアーは特徴がなかった」などと評論家が総括してしまうことがあるから、単に理論武装の意味で付けられている側面がある。ツアーではなく単発のライブでも、同じく「ライブタイトル」が付けられることが多い。やっている曲が同じでも、ライブタイトルが違うだけで雰囲気が少し違って感じられるという、聴衆の心理的錯覚もこの行為に意味を与えている。このキャッチコピーには、放送倫理規定以外に目立った規制はないから、ほぼどんなタイトルでも付け放題。「○× tour in 2004」「新アルバムリリース記念」などはまだ常識的な方で、「永遠の愛と友情ツアー」「至福の瞬間ツアー」「光を信じてツアー」「平和の祈りと星空の輝きツアー」「宇宙のど真ん中で愛をつぶやくツアー」「万国博覧会ツアー」などなど、コピーライターの正気を疑うようなタイトルが飛び出しても誰も不思議に思わないのが昨今の傾向である。

つばさ【翼】[名詞]
 本来は鳥類や昆虫くらいしか持っていない、空を飛ぶための身体器官の名称。魚の胸ビレが進化したものと言われているが、真偽は定かでない。人間の世界では、愚かにもこれを欲しがる歌が大ヒットしたあたりから、かりそめの開放感を象徴する比喩として盛んに用いられるようになった。例:「見えない翼を広げ、今旅立ちの時」。最近では、マンガや歌詞以外の分野(例えば一般文学)でも使われることがあり、そんな描写を発見したこちらは赤面がなかなか治まらない。おいおい、いい年こいて翼かよ。だいたい、夢多き自分の体重や体脂肪率がいかほどあるか知っていれば、背中に生える程度の翼を広げたくらいではジャンプもできないことは容易にわかるはずである。鳥は、ホンのわずかな時間だけ地面を離れるのに、想像を絶するような努力を重ね、気の遠くなる年月を掛けて、文字通り骨の髄までダイエットした。たかが鳥だと思って侮るな!と、鳥さんもさぞかし怒っていることだろう。最近の人力飛行機の翼は軒並み20メートル以上あるらしいが、我々の体重では、最低でもこれくらいの長さの翼を考えないといけない。これでは満員電車には乗れそうもないし、多分三回くらい羽ばたいただけで背骨を脱臼するだろう。有史以来、人間が生理的な翼を獲得したことはただの一度もなかったことを、ここで改めて確認しておきたい。

つぶやく【呟く】[動詞]
 小声で独り言を言う。口の中でブツクサ言う。歌手の中には、このつぶやきを利用して「つぶやき唱法」と呼ぶべき歌い方をする人がいる。特に若い女性に多い。アメリカには「トーキング・ブルース」(時事ネタなどを語りかけるように唄うフォーク・ブルース)というスタイルもあったが、これは別につぶやいているわけではなかった。ここで言う「つぶやき唱法」は、一部のボサノバ歌手や日本のフォーク歌手、J−POPアーティストなどの歌い方を参照されたし。唄う方も聴く方も力がスウッと抜けるような感じなのである。これは、いわば演劇のセリフに近い。歌は本来、世間様への訴えなのだから、ブツブツつぶやいたりヒソヒソ話をするのは内輪だけにしていただきたい。

つめ【爪】[名詞]
 手や足の指先についている固いもの。もしくは爪状に尖ったもの。能ある鷹が隠し、能のないギタリストが割るもの。なぜ我々の指にこのようなものがついているのか、改めて考えればちょっと不思議だが、もともとは獲物や収穫物を握って逃がさないように立てて引っかけるものだった。情けない話、獲物を捕らなくなってから人間の爪は弱くなる一方で、今ではちょっと弦をひっかいただけですぐ割れてしまう。それゆえ、ギタリストの爪の手入れは執拗に行われ、あの派手派手なネイルアートに凝る女子高生も真っ青の域に達している。目の細かい紙ヤスリで磨いたり、マニキュアを付けたり、接着剤や石膏で固めたり、テーピングしたり、アクリル板などで作った「付け爪」を張り付けたりと、各人様々におしゃれな工夫を凝らしている。ギタリストは、爪のこまごました手入れについて話し合うのが大好きな人たちだ。では、かくいう私の手入れ方法を開陳しよう。男らしく歯で噛んで形を整えるのだ。私がギターを弾きはじめて二十数年、ほぼ一貫してこの方法をとってきた。どうやらもともと私は、人より爪が固いらしいので、これでなかなかいい具合にストレスを解消できる(別に悔しいわけではない)。歯で爪を噛むのにも微妙なコツがあり、唾液が重要な役割を果たす。最初に軽く何度か噛んで、唾液をしっかりと馴染ませ、少し爪を柔っこくしてから噛み裂くのがよい。反対の手の親指爪を併用して、微妙な整形も可能。ただし、ちゃんと爪の垢を取ってからやるのは言うまでもない。よく爪の垢を煎じて飲むなどというが、爪の垢はなんかしょっぱかったりして、うっかり舐めるとためになるどころか心底落ち込んだ気分になってしまう。また、爪の下手な噛み方を続けると、歯の先の神経に触れてビリビリッとシビレることもあるので注意が必要である。こんな爪の手入れの秘訣がギター専門雑誌に投稿されたりしたらちょっと恥ずかしいので、この話題はあえてこの辺でさらっと流そう。

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