私の録音機材列伝・外伝
TAB譜随想(2003年12月20日更新)
・2.Finale について
・3.MIDIギターについて NEW!!
・4.現在の作業(途中経過)
この随想は、御好評を得つつも例によって非更新ページとなってしまった「私の録音機材列伝」の外伝として、パソコンによる「TAB譜」作成におけるソフトなどについての苦労話を執筆するものである。録音機材という観点では捉えられないが、ある種カブる部分もあるのでここに記す。
お仕事や趣味などで、スラスラと快適にTAB譜を作成している人もいるかと思う。しかし実は、私にとっては未だに悪戦苦闘が続いている分野で、「何でこんな事ができないの?」「どうして私はこんなに要領が悪いの?」といつも歯ぎしりをしている。スラスラできる人の HOW TO 記事の方が参考になるはずだが、なぜかそういうタメになる内容のホームページは少ないようである。こうなったら、私の試行錯誤の歴史を記録するのも、同じような苦労を感じていた人にとってはちょっとした参考になるかも知れないと思って執筆する。
2003年12月15日
浜田 隆史
「私の録音機材列伝」で執筆した通り、私の音楽パソコンの歴史は意外に古い。興味のある方は、まずそちらを参照してほしい。もちろん、最初から楽譜を作ろうという野心を抱いていたわけでもないのだが、当然意識はしていた。だいたい、パソコン購入前に使っていたカシオやパナソニックのワープロでも、何とか譜面が作成できないものかと四苦八苦していたのも懐かしい。ワープロは、今のパソコンから見れば速度的にも性能的にも全く不利で、私はあきらめるのが早かった。
私の知り合いでは、二人がワープロ譜面の分野に熱心だったことを思い出す。
一人は、言わずと知れたTABギタースクールの打田十紀夫さん。打田さんも最初はワープロでTAB譜を打ち込んでいたらしく、何度かその苦心の成果を見せてくれたことを覚えている。ただし、お世辞にもきれいな体裁とは言えなかった。後にMacにより膨大な量の精緻なTAB譜を作成することになる人も、最初はこうだったのだ。みんな苦労していた。
もう一人は、クラシック・ギタリストの新間英雄さん。新間さんはいろんな分野に体当たりするお手本のような人で、ギタリストなのに日本有数のケン玉の名手だったりするのだが、専用ワープロの分野でもすごい研究の成果を発揮していて、限界まで外字を駆使した譜面やCADなど、ワープロの常識を打ち破るほどの出来映えで、賞も何度か受賞していたらしい。すごすぎて、真似はできないと思った次第...。私の体験に話を戻そう。
ワープロ以後、最初のパソコン・アタリで使った譜面ソフトの Notator SL は、確かに譜面作成には使いやすかった。高音の符線の向きは上、低音のベース部は下となるような、多声楽譜を作る際の利便性は、今でもこのソフトが一番だと思っている。画面に見えている範囲だけという制約はあるが、ドラッグして音符を選択し、それに対してのみMIDIチャンネルを変えたり符線の向きなどを変えたりできたのである。これに対し、Finale2001 では低音部だけわざわざ別のレイヤー(コンピュータ上のOHPシートみたいなもの)に分けて入力しなければいけない。同じレイヤーの中で向きを変えようとして試行錯誤の結果、「道具箱ツール」でも似たことができることを確認したが、やはりレイヤーを別にしないと完全に独立した多声を表現することはできない。どちらにしても、その手間たるや悶絶死ものである(Finale2001についての大変な苦労話は後述)。
しかし、ノーテイターには惜しいことにTAB譜作成の機能が全くなかった。非常に惜しい。かなり悔しかったので、五線譜を二段にして、一段目に楽譜、二段目に小さい数字を根気よく打ち込んでTAB譜の代わりにした。結構続けて、オリジナル曲を数曲打ったのは良かったが、やはり時間が掛かる。そのあまりの面倒くささに負けて、あきらめた。次に買ったパソコンのNEC(PC-9821)では、全く音楽ソフトを使わなかった。もともとアイヌ語勉強のために買ったもので、しかもPC98の音楽ソフトは数値編集のマニアックなシーケンス・ソフトが基本だったので、譜面作成で使う気が起きなかったのである。
1996年に制作した、今のところ唯一の自主製作楽譜『ギター作品集1』は、手書きである。パソコンの前で唸っているよりも、こっちの方が作成時間が早かったからだ。
現在使っているDOS/V機(ごめんなさい、元・親会社様!)で、ようやくパソコンによるTAB譜作成のまねごとができるようになってきたのは、1999年頃だったと思う。私のギター先輩である小西さんが導入していた MusEdit というシェアウェアを使い、10数曲のラグタイム・ギター曲をTAB譜付きで入力した。このソフトは簡易譜面ワープロと言うべきもので、かなり軽くて使いやすかった。ただ音の長さを指定して打ち込むだけ、TAB譜は数字入力という簡単さ。細かいところは設定できないし、プレイバックはお粗末、符頭が微妙に小さいのでプリント映えもしなかったが、変に凝ったソフトよりは入力しやすいという利点があった。
このアレンジの多くは、すぐ『クライマックス・ラグ』のCDやTAB譜用に使うことになったが、TABギタースクールでは、音楽業界の標準となっている譜面作成ソフト「フィナーレ Finale」でデータを入稿しなければならなかった。
このため、私は否応なしに「Finale」(バージョンは「97」)の導入を行った。当時の実売で6万円ほどだったと思う。MusEditでの作業はムダにしたくなかったのだが、MusEditの当時のバージョンでは、MIDI変換に致命的なバグがあったらしく、ほとんどデータの受け渡しが効かない。どーしてこういう簡単なことができないの? しかたなく、MusEditの打ち出しを見ながら同じ事を手で入力するハメになった。もうこの時点でいいかげんウンザリしていたのだが、さらなる困難が私に訪れることになる。A楽節(クラシック・ラグで言えば、曲の約四分の一)を何とか音符にするまでに、何と三日ほどもかかったのである。私が不慣れかつ不勉強で、特別にパソコン音痴なのかも知れないが、直感的インターフェイスとはほど遠い、私にとっての使い勝手の悪さは否めなかった。心がこのソフトから遠のいて、つい他のことをやりたくなってしまった。以下に、基本的には現在も続く Finale との格闘の記録を記す。
まず、Finale の編集画面は、ページ画面とスクロール画面の二種類がある。実は、もうこの時点で私はギブアップ気味(ギブアップ早すぎ...)。ただ普通にギターの譜面を書きたいだけなのに、何で画面が勝手にスクロールするの? しかも、当時のバージョンでは、スクロール画面でないと音の修正が効かなかった。ページ画面は、印刷時のレイアウト用だったのである。小節をコピーしたり削除したりするのに、音符入力モードのままでは小節の選択ができず、わざわざ「ブロック移動ツール」なる別の編集モードに移らねばならないのがとても煩わしかった。譜面の画面で、ある部分をドラッグするという行為は、何かを選択したいという意味に決まっているのだから、ドラッグした時点でモードを瞬時に切り替えるなりして素直に選択させてほしい。
同様に、音をたった一つだけ消すのに「音符移動ツール」、音符の位置をちょっとだけずらすために「道具箱ツール」内の「音符配置ツール」、音符の音程を一音上げたいがために「高速ステップ入力」、小節の空き間隔を整えるために「小節ツール」などといった、様々な編集モードに移行しないといけない。私は、何度パソコンの画面の前で脱力したかわからない。画面を直接触れるマウスという文明の利器があるのに、どうして何でも直接動かせないのだろうか。なぜ絵を描くように譜面に書き込めないのだろうか。作業者がある部分を直感的に動かそうとしているのに、面倒な手続きを経なければいけない理由でもあるのだろうか。
幸いにも、「高速ステップ入力」は、ショートカット・キーに馴れれば、ある程度連続したステップ入力や音の修正が可能で、音符の入力はもっぱらこのモードで行った。しかし、このモードに一度入ってしまうと、編集している小節のみが拡大表示になり、次の小節との関連が一部見えなくなってしまうことがある。違和感無く、常に全体を高速ステップ入力のような自由編集状態にできないのだろうか。以上のような困難を乗り越えて、何とか音符を入力しても、肝心のTAB譜作成でまたつまづいた。まずこのソフトは、TAB譜の直接入力に全く対応していなかった。TAB譜の数字を直接TAB譜にテンキーで入力することができないという、ギタリストにとっては「ほとんどあり得ないこと」になっていたのである。TAB譜は、あくまでオマケのプラグイン・ソフトで楽譜から自動変換するしか道がなかった。
しかも、コレが一番腹立たしかったが、自動変換したTAB譜の修正も満足にできなかった。「音符移動ツール」を使って変更する音符を選択するのだが、小節の中にある音のうち、1弦なら1弦、2弦なら2弦など、弦毎に一度にTAB譜の各弦までドラッグしてやらないとダメで、音を一つだけ修正なんてことをすると、その弦にのっかっている他の音の数字が消えてしまうのである。この奇妙な現象を発見したときには、気が狂わんばかりの憤慨で、思わず開発元とは全く関係のない打田さんに文句のメールを書いてしまったくらいだ。くってかかられた Finale ユーザーの打田さんも、とんだ災難。どうもすみません。
このように、せっかく楽譜をきちんと作っても、TAB譜の面倒くさい修正作業との格闘でその倍以上の労力が掛かる。これなら、TAB譜から瞬時に音符にできる MusEdit や TablEdit などのシェアウェアの方が、遥かに効率がいい。トドメが、原因不明のクラッシュである。突然ソフトが止まって復旧不可能ということがたびたびあった。Finale はもともと Mac の ソフトなので、Windows との相性は今一つだったのかも知れない。時間を掛けてできた入力作業が何度か水泡に帰したときは、悲しい悟りができていた。
今でも、この馴れない苦労を乗り越えて『クライマックス・ラグ』全13曲(+予備の数曲)の楽譜を入力したのは、なかなか私にとってスゴイことだったと思う。ただし、私ができたのは最低限の音符入力作業までで、今だから言うとTAB譜の部分は自動変換しただけで、細かい修正が全然できず、紙の打ち出しに赤ペンを入れてTABギタースクールに直していただいたという、とんでもなく心苦しいことになっていた。もちろん、レイアウト作業などもすべてやっていただいた。ステファン・グロスマン式といえる、右手のピッキングが親指かそうでないかで別の符線をTAB譜に付けるという形式は、入力や修正にかなりの時間と手間が掛かるはずだ。
TABギタースクールの素晴らしい体裁の楽譜・美しいTAB譜を見るにつけ、並々ならぬ努力とプロの技によって生み出されたことに思いを馳せるのである。
< Finale(2001)との格闘 > 2000-2003年頃
『クライマックス・ラグ』楽譜入力は、実質的な期間にして実に2ヶ月以上掛かった一大事業だった。私の飽きっぽい性格からして、こんな辛い作業をずっとやり続けるのは無理である。案の定、仕事から解放されると私のTAB譜への情熱はすっかり冷え切ってしまった。それでも、打田さんから2000年頃 Finale の新バージョン(2001)の情報を聞き、多少は使い勝手が良くなっているようなので、多少価格に不満があったがバージョンアップをやってみる。
確かに、以前のバージョンに比べて余計なポップアップが少なくなり、すっきりした印象。あの原因不明のクラッシュが無くなっただけでも大いなる進歩に感じた。あのスクロール画面とページ画面は簡単かつ瞬時に切り替えられるようになり、しかもページ画面でちゃんと音符をいじることができる。ページのレイアウト編集も大きく操作性が向上した。しかし、基本的なインターフェース、例えば音符の入力や編集のやり方はあまり変わっていないので、まだまだ個人的には満足できない部分が多い。特に、TAB譜の機能は全くそのままで、とてもがっかりした。楽譜とTAB譜で別々にかかる手間は、ほとんど短縮できないということだ。
ともかく、自分に合わない点を我慢しながら、『クライマックス・ラグ』以後も少しずつ自作の曲などを中心にデータを打ち込んでいった。今思い出すのは『オリオン』(2001)収録曲の「スマイラー」「道化師の夢」「フラット・マイナー」、オムニバス盤などに収録した「アイスバーン」、「サロン・マンドリーノ」、未だ発表機会がない「ラグタイム・フォークビレッジ(仮題)」や「ベーコン・エッグ」など。ヒマを見てはこつこつと入力していった。
ところが、我がパソコン人生最大の悲劇、HDDのクラッシュ(2002年末)を経験することになる。これは誰にも責任が無く、ひとえにバックアップを取っていなかった私の不徳と致すところだったが、これによりほとんどのTAB譜入力作業が灰燼に帰した。HP何万ヒット記念かでPDFファイルとして出力していた「サロン・マンドリーノ」だけが、かろうじて画像データとして手元に残った。この影響で、今に至るまで弾き方を思い出せない曲もある。さらに、発表準備を進めていた『CDR版ギター作品集1』の一部ミス修正済みスキャンデータや奏法解説文、CDRアルバムのミックス作業履歴、ジャケットデータ、顧客データなど、いろんなモノが吹き飛んでしまった。
正直、今でもこのショックからは立ち直れていない。パソコンはHDDを入れ替えることで復旧したが、消えたデータは戻るはずもなく、その後仕事が忙しくなったりして、すっかり Finale との格闘はご無沙汰になってしまった。同じ曲をもう一度同じ苦労をして入力するのは、まっぴらご免だと思った。しかし、それから時は流れ、このページを新設した2003年12月に入ってから、やっと仕事としてもう一度TAB譜作成に注力していこうと思っている次第なのである。
パソコンによるTAB譜入力作業の再開にあたって、私は新兵器を二つ導入しつつある。それが、以下にご紹介する「MIDIギター」、そしてTAB譜作成機能を大幅に向上したと噂の Finale 最新バージョン(2003)なのである。
少し楽譜はお休みして、夢のMIDIギターについて語ろう。一般には「ギターシンセ」と言えばおわかりだろうが、微妙に意味が違うし、ここではMIDIに話を絞りたいので、以下このように称する。
ギタリストなら、一度は使ってみたいと思うかも知れないこの変態楽器。MIDIギターとは、ギターの音をピックアップで拾い、その信号をMIDI情報に変換するという驚くべきもの。何がそんなに驚きなのか、ギターに詳しくない人はわからないかも知れないので、ちょっと説明しよう。弦をはじいて音を出す「撥弦楽器」であるギターは、鍵盤を叩いて音を出す「鍵盤楽器」の場合と違い、スイッチの機械的なオンオフや強弱で信号を認識するわけには行かない。実際のアナログ音を瞬時にデジタルな演奏情報に変換しなければいけないので、条件が不利なのである。しかもギターの音は、なかなかデジタル信号に変換しにくい不安定なもの。ギターの一音の出し方には、表情の付け方も含めれば無数のやり方があり、チョーキングやプリングなど装飾音も多彩。また不完全発音に近い微妙な音もあったりするので、例えば C なのか C# なのか判定が付けにくいこともある。つまり、変換ミスも多い。
「私の録音機材列伝」で、私は自分にとっての最初のMIDIギター、カシオPG-300 についてご紹介している。いつ買った物か書いてなかったが、多分1993年位?だったと思う。もう10年は前の物だ。ギターでMIDIピアノの音が鳴らせる、ということがとにかくうれしかった。当時にしてはその変換スピードは優れていたと思うが、やはり実音とMIDIのタイムラグを我慢して使わなければいけないため、そのコントロールには一種の慣れが必要だった。MIDIやシンセの部分はすでに壊れているため、詳しいレポートはもうできない。当然、MIDIの打ち込みなどという用途には向かないものだった。
しかし、技術革新というのは恐ろしいもので、現在の機械であれば、MIDIの変換スピードはほとんど問題ないレベルまで向上した。あのAKIさんは、特注でギターをMIDI対応にしている。AKIさんの楽譜集『Acoustic Rock Guitar』の採譜は、おかげでずいぶん効率的だったらしい。つまり、MIDIギターといっても、新しいギターを購入しなくても良い。ギターに6弦独立で音を取る専用ピックアップを付けて、その出力をMIDIインターフェースと呼ばれる機械に通せば、そこでMIDI変換をしてくれる。
この分野の草分けで世界最先端を行くローランドの最新マシンは、私の希望に添うものであることを店頭デモで確認したので、ついに私も2003年12月に購入した。それが、以下にご紹介するMIDIインターフェース「ローランドGI-20」である。パソコンとの接続にはUSBを使えるので、MIDIケープル接続による伝送ロスを考えなくてすむのが、このモデルの良いところである。専用ピックアップのセッティングはなかなか微妙なので、試行錯誤して機械が一番認識しやすい高さに調整する。また、GI-20 の方でも弦ごとに感度を調節する。MIDIのモードには「モノ」(6本の弦ごとに1本ずつ異なるMIDIチャンネル出力)と「ポリ」(一つのチャンネルで複数弦を出力)の二つがある。とりあえずポリにして音を出せば手っ取り早いが、後々便利なのはモノの方である。まあ、この辺の使用手順は、後で詳しく紹介しよう。
私は、専用ピックアップを、なんとカシオの PG-300 に取り付けた。壊れて練習用にしか使わなくなってしまったことを不憫に思っていたし、似たようなピックアップが付いていたのをひっぺがしたら取り付けもまあまあ楽だったので、良い選択だったと思う。このギターは、まさに科学技術のカタマリになってしまった。あれこれ解説するより、とりあえず何も考えずに使ってMIDI録音してみた。その例として、以下の二つのMIDIファイルを公開するので、よろしければご一聴を。なお、ベンド情報はクロマチックに設定したので、経過音も全てアタックの付いた音になっている。
「ロック・クライマー」 RockClimber2003-12-14.MID 21kb
「メイプル・リーフ・ラグ」 MapleLeafRag2003-12-14.MID 20kb
ギター・アレンジがピアノの音で聴けるというだけでも、なかなかに面白いものだと思う。私の好みはスチール・ドラムの音で、対応するMIDI音源のある人はお試しあれ。
これら二つのファイルは、調を設定して無駄な小節をカットした以外、何の修正もしていないから、かえってみなさんの参考になると思う。ざっと聴くと、低音弦の認識不足や多少の遅れがあったり、いまいちノリが悪かったり、すっとんきょうな認識ミスがたまにあったりするが、まあまあ実際の演奏に近いものだと思う。ただし、私自身の弾き間違いもあるので、そのへんはご容赦を。こういう演奏データを、手直ししながら譜面作成、というのが現在の私の計画である。以下の項では、その実際の手順について触れたい。
(続く)
(続く)