浜田隆史詩集
 ボンボンクラクラ Bonbon Kurakura(2007−)
(2007.12.30更新)

 

  雪面と足

おい足
しばらく出ていなかったからか
交差すらうまくいかない
ずんとくる寒さを今年は知らない
だからフラフラのダラダラ
私は腐っている

おい耳
いつだったか鈍っていたからか
今でも冴えない気がする
雪の積もる音は私に甘く囁く
ドンシャリのハイファイではない
私は不安がある

もどかしいときはたいてい
おなかが頭より悪いのだ
空気を冷たい顔で流す
足を雪面に通過させる
うまくかみ合わない
重力が足りない
チェーンでも巻くか

おい夜の空
私はボンクラだが
あんたもずいぶん的外れだ
だってこんなの絵にならないもの
誰もすばらしいと感じないもの
何もほのめかしていない
縮んでいくだけの
あるがままの人生なんて
ボンボンのクラクラに違いない
それはニートとか
差別とかの範疇だ

暗い粒子を蒼い山に流せ
夜は夜らしくしろ
腐った冬を袖から取り出して
ゴロゴロのペッとして
宇宙に投げてしまえば
少しすっきりすると思うよ
この心
(2007・1・20)

 

  指のろれつ

部屋の壁に止まっている
私の体はハンガー
たまに電話が来て蝶になる
ひげぐらい剃れ

そして丸い積雪を通って
水っぽい鼻の空気
くすんだ春が近づき
何か足りないと気づく

あまり気にするな
できることはすべてしている
左指がへたばって
ろれつが回らないが
少しずつ埋まってきた
頭の血が騒ぐ瞬間があった
ごく小さなスリル
のために私は生きている

肩が落ちて
今こうして取り繕いながら
筋肉を鍛える私の
体はハンガー
洗濯物と一緒に
家の意味を内側から支えている

くびくびくび
みんなしっかりしろ
少し飲め
(2007・1・30)

 

  

昼が下がっていて
いつもの坂を下り
いろいろなところに引っかかってきて
そしてその坂を上り
かえって来たのだが
これいったい何になってるの

指が冷たいくらい
さわやかな冷気を吸い上げて
これが初夏だと自嘲して
そしてこの家はいつもより
ほこりをかぶっている
これいったい何になってるの

繰り返して帰り
また繰り返して
少しインプロがしたくなる
音楽とはそういうものだ
私は音楽だ
でも帰る所は同じで
そのあといったい何になっているのか
ふと考える

あの人たちに通じていないのだとすれば
この坂はただの坂で
ダイエットの意味しかない

昼が下がっている
そして太陽も下がっていく
私の町に落ちて
いったい何になっていくものか
とんと
ケントウがつかない
(2007・5・14)

 

  いじわる

そういうわけでいじわるしました
猫をにらみつけてみました
道端の枝をにらみつけてみました
傾斜に対してアキレス腱を動かしてみました
帽子を目深にかぶりました
肩の痛さを無視してみました
電話をしないでおきました
きれいな空なのに下を向きました
とさ
つまらんやつだな
なんて微妙ないじわるだい
でももっといじわるなのは
そんな人を眺めて楽しむことでしょう
いじわるはなしで
話しませんか
ついしてしまったいじわるの
その矛先を収めて
泥の地面に突き刺して
靴に力を込めて
丸腰になりましょう
ばれないんですから
誰もいないんですから
このボンクラめにしゃべらせずに
ただ歩かせてください
次の歩みはきっと
もう少し楽しいはずなのです
(2007・5・14)

 

  何もしない才能

今日
意味のあることは
何もしませんでした
もし食べることとか
何かを出すこととか
呼吸することとか
景色を見ることとか
ギターを弾くこととかを
特に意味がないと思うのであれば
今日の私は無駄な人でした

今も腹に黒い雲を抱えながら
早くしなければいけない宿題を
どうやったら延ばせるだろうかとか
頭がよくなる不思議なページを探したりとか
二本以上缶ビールを飲んではいけないとか
全く意味のないことを考えているのです

野球の解説ではありませんが
こんなことならいっそのこと
私の何もしない才能が開花しないかと
思うようになってみました
(これはただの言葉遊びなのです)

これなら口を閉ざした方が雄弁です
嘘をついた方が真実です
歩かない方が健脚です
食べない方が美食です
下手くそな方がバーチュオーソです
笑わない方が楽天家です
今までの私でない方が私なのです
この空回り
さわやかなものが詩なのではなく
難解なものが心なのではなく
働いているものが勤勉なのではなく
行動することが成就なのではなく

そして目が回った頃に
最後に出てくる言葉
くるくる
クラクラ
ボンボン
あれっ
なんかどうでもいいなあ
何難しいこと書いてんだよ

要するに
今日も生きていて良かった
それじゃダメなのか
(2007・6・15)

 

  スマートボール

鉄橋近くの水天宮
今日からお祭りだ
露天を見るのも久しぶり
見つけたスマートボール

子供たちが熱中していた
あの玉の一つ一つに
不思議な引力があって
私はちょっとだけ
引き寄せられた

つまらない用事で
歩き抜けたのは失敗だった
もう少しだけ
あの引力に捕まっていたかった


降るなよ
水の神様だからって
ほんのささやかな町の灯まで
消さないでほしい

(2007・6・15)

 

  孤独

風が言った
孤独っていいなあ
俺の魂は病んでいるなあと
あっそう
勝手にブラウン運動して
遠心力でもつけて
色も病的に変わるがいいさ
ワンとかニャアとか鳴けばいいさ
お前の行く先は都会の
煙突の中か
ゴミをあさるカラスの口の中だ
(2007・9・3)

 

  いない

風がこうも言った
お前はいない
私の目の前にいないお前は
私に話しかけもしないお前は
この世にいないのと同じだと
あっそう
それは違うよ
君と話したことのない人たちも
別々に
幸せに笑って
新たな風を生んでいるというのに
(2007・9・3)

 

  前人未到

私たちはいつも
それぞれが前人未到の領域で
不安定に
悩みもだえているのだと
それは誇ってもいいのだと思う
みんなが世界一で
宇宙一である

私たちはアーティスト
仲のよいアーティスト同士だと思いなさい
あなたの掛ける迷惑は
私の望む幸せの
ほんの一部の香辛料で
食べた後の風味を楽しむもの
それは宇宙一のおいしさだと思いなさい

みんなで忘れよう
自分たちの情けない姿を
少しの間だけ忘れよう
宇宙一なら恥じることはない
それならボンクラでもいい
チケットの売り上げなんてどうでもいい
たたき出すならもう好きにしろ

一緒にライブをしよう
タバコ的なオーラと共に
その後でまた一緒に身もだえしよう
宇宙一に対する仕打ちは
やはり宇宙一だと予想されるので
(2007・9・3)

 

  夢の体温

高エネルギー食で
体温が上昇し
酔った
どこからが夢なのか
覚めた悪夢なのか
相変わらず重荷がぶら下がって
私の肩をひん曲げて
喉の奥も腫れていて
夢の風味を後押しした
もちろんここでの夢とは
辛くてさびしい予知の話
雨に降られる話だ
ただでさえフラフラなのに
このボンクラめ
余計なことするなよ
あいまいな存在を裏打ちする
確かな冷や汗が流れ
私の時が一瞬止まり
苦い風味に戸惑う夜の静寂
 (それは後でテレビが壊してくれた)
ああ私の体温だけが不確かだ
水を飲んだら少しは
夢から覚めるだろうか
雨の世界から抜け出せるだろうか
冷えた水で腹を壊した
代償は得られるだろうか
(2007・9・15)

 

  私はボンクラ

理屈なし
夜の夜中に
私理屈なし
やることやったのか
落ちていた心を拾ったのか
全て終わっても
また次がある
そんな風に思っているようじゃ
いつまでも私の手から
未練が離れない
年末というから
もっとさわやかな世界を
想像していた
一応さわやかだが
ひと気がないよ
人の胎動が聞こえない
どこから何が聞こえてきたのか
いつからそれが匂ってきたのか
すでに冷え切った味噌汁の元が
私の階段に置いてある
私はボンクラ
今年もそうだった
理屈なし
気持ちが心に変わるとき
私にはもう少し良い理由ができるだろう
人に何かしてあげられるだろう
それまで大目に見てよ
寒くもない
暑くもない世界に
生きている
不思議な人たちよ
(2007・12・30)

 

 

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