16.ヤマキ Yamaki

R−60(1974〜75年製?、#30512)(現在無し)


表面板:スプルース単板
側板・背面板:ローズウッド単板
指板:ローズウッド
ネック:マホガニー

使用アルバム:「
運河のカラス」「Echoes From Otarunay Vol.1
 
 ヤマキは、日本のアコースティック・ギターの歴史上無視できない重要なメーカーです。1960年代にスタートした歴史を持ち、主に関西方面ではヤマハと拮抗するほどの一大ブランドだったそうです。私は北海道の人間で、今まであまり見たことがなく詳しくなかったのですが、そのうわさは伝え聞いていました。以前から、ヘッドウェイと並んで、いつか試してみたいという気持ちはずっと持っていたのです。
 
 このギターは、1974〜75年の短期間に作られた比較的珍しいモデルで、2007年9月、例のヤフーオークションで落札。当時6万円のオール単板モデルですが、オークションでは割と低い値段で決まってしまい、むしろ出品者に申し訳なかったくらいの逸品です。例えば、同じ時代のヤマハの同クラス品なら、こんな価格では絶対買えません。
 ルックスは非常に地味、塗装の白濁もある見栄えの悪いギターですが、その実力はうわさ以上、本当に感服しました。こう言っては持っている人に失礼かも知れませんが、私はこれがあれば、もうマーチンもコリングスも必要ありません。鳴りの豊かさは、私の持っているギターの中でもトップクラスだと思います。鳴りすぎてうるさいくらい。むしろモラレスBM-60DHの方が、録音特性は良いのではないかとも思います。
 
 R-60の鳴り方は独特で、一言で言えば暴れ馬のような骨太の音。倍音もかなり出ているようなのに、それ以上に実音がギュンギュン前に出てきます。やはり弦の分離とレスポンスの良いギターです。この辺はマーチンD-28の一般的なモデルと違う点で、国産ギターの良いところだと思います。こういうギターこそ、私はフィンガースタイルに向いているのではと思うのです。
 さらに、ネックブロックについている三角形の梁は、ヤマキの独創性を示す特徴の一つで、サウンドホール側指板の沈み込みを防ぐ意味があったとのこと。単なるマーチンコピーではない、国産ギターならではの工夫に心意気を感じます。ネックにはしっかりした厚みがあり、反りも全く問題ありません。むしろ逆反りを気にした方がいいくらいです。
 1970年代中頃に、こんなしっかりした作りの国産ギターが作られていたのは驚きです。いや〜、落札してよかった...
 さて、惜しむらくは、手に入れたときには特定のフレットにほんの少しビビリがあったため、新作CD『太陽の音楽』(2007)の録音に使うには若干の調整が必要で、録音期限の関係もあって、今回は使用を見送りました。CD発売後、信頼できるお店に少し調整していただいたら、その問題もほぼ解決しました。
 まだピックアップを付けていないのですが、このまま付けずにスタンダードチューニングでの録音用に使おうと思っています。なぜかというと、このギターは若干逆ぞり気味らしく、常に強いテンションをかけていた方がネックが安定するようなのです。

追記(2008-2-29) 『運河のカラス』では、予想通りR−60のパワフルな鳴りを生かしたテイクが録れました。もう一本の使用ギター、モラレスBM−100のバランスのよい鳴りと好対照になったと思います。特にソロ曲「アートウッド・ラグ」はとにかくガンと大きな音が要求される曲なので、あまり音が暴れないアートウッドよりも、むしろこちらの方に合う曲だったと思います。

なお蛇足ですが、このR-60の糸巻きは、後に誰かが部品取りのために糸巻きを交換したらしく、オリジナルと思われる「GROVER」ペグではなく、「CLOVER」というバッタもののペグが付いていました(右の写真参照)。そのせいで、いつもチューニングには苦労しています。

追記(2008-6-2): さすがにバッタもののペグでは可愛そうになってきたので、少し前に本物で中古の「GROVER」ペグをヤフオクで手に入れ、取り替えました。やはりこの部分でスムーズにチューニングが決まるとうれしいものです。
 
追記(2012-4-20) 上に記している通り、そのパワフルな鳴りを心底気に入って実戦で使っていたギターでした。しかし、後の結婚生活の準備でギターの本数を減らす必要があったため、2011年1月、札幌のシンガーソングライターの板谷みきょうさんにお譲りしました。

 

(F−)250(1972〜73年製?、シリアルナンバーなし)(現在無し)


表面板:シダー単板
側板:ローズウッド合板
背面板:ローズウッド単板
指板:ローズウッド
ネック:マホガニー

使用アルバム:なし
 
 2008年3月、思うところがあって12弦ギターを新たに購入しました。12弦は、2007年のCD『太陽の音楽』の録音でヤマハの12弦を2曲に使用して、その好感触に自分でも驚いたものでした。それで、次回作は12弦ギターを中心にしたものにしたいという意向から、ヤマハLL-25-12以外のギターも少し試したくなったのです。
 このギターはやはりヤフーオークションで格安にて入手できたものですが、到着すると、なぜかヤマハのギターケースに入っていました。
 「F-150」(6弦ギター)の12弦バージョンです。
 背板に「MANUFACTURED BY THE YAMAKI MUSICAL INSTRUMENT 250」という刻印がありますが、それ以外には何も記されていません。ヤマキの歴史的解説を含む素晴らしいページ『ヤマキ解体新書』で閲覧できる1973年のカタログ資料に同じギターの写真が載っています。また、通称「チビロゴ」といわれる細い縦ロゴのモデルは、1972〜73年頃の短期的仕様らしいとの記載があります。内部構造は「L型」ネックブロックが採用されています。ゼロフレット、ヘッドにあるトラスロッド・カバーなど、1975年頃のカタログにあるF-250(合板3ピースバック)とはかなり仕様が違います。
 
 なお、最初は表面板はスプルース単板だと思っていたのですが、木目などをよく観察するとどうやらシダー(杉)単板のようです。意外なことに、ヤマキの最初期の単板ギターは多くがシダー単板だったようなので、このギターは製作推定年がもう少しさかのぼる可能性もありそうです。
 
 バックは2ピース、サイドに割れ止めはなし。木目に目印となるようなねじれがあまりなく、サイド・バック共に、単板か合板かの判別がちょっと難しいようです。しかし、私なりにいろいろ細かく木目を見たところ、バックに単板らしい比較的長い割れの修理跡もあり、やはりバックは単板、サイドはどうやら合板だと思います。このように、同じヤマキのギターの同じ型番でも、制作時期によって仕様が違うのがややこしいです。ともかく、ほぼ完全な柾目で、かなり良質の材ではないかと思います。ボディーのバインディングはメイプルらしく、価格に比して高級感があるギターです。

 残念ながらナットがガタガタ、サドルは低すぎ、フレットも少し浮いていて、実力を最大限に引き出すにはやはり調整の必要がありますが、さすがヤマキのオールド、音は最高です! やっと12弦ギターの納得いく音に出会いました。ヤマハ、そして同時期に手に入れたスナッピー(オール合板の12弦ギター)と三つ巴の比較でも、このヤマキが一番深く艶のある、音楽的な音を出しています。弦を替えてセッティングも万全にしたら、もっといい音になると思います。

追記(2008-4-6):いつもお世話になっている札幌の「楽天舎」にリペアしていただき、見違えるほど弾きやすくなって帰ってきました。もちろんセッティングは完璧。気が急いてしまって、さっそくその日に行われた札幌・ファニーでのライブに使いました。弦はオークションで手に入れたときのままで、全く死んでいる弦だったのですが、それでもヤマキ12弦の実力を感じるには十分の、迫力ある華麗な音が出ていました。
 

 
 
追記(2008-6-2): 2008年5月13〜25日までの「6弦・12弦ラグタイム・ツアー」に、私はツアーで初めて12弦ギターを持ち込みました。ライブでも使えるこのギターの音の素晴らしさを再認識しましたが、実は...5月22日に大阪の御堂筋線のホームにて、ソフトケースの肩掛けのジョイント部分が不意に外れて、立てていた状態からうつぶせにバタンと倒してしまいました。幸い、念のためタオルを入れていた表面板は無事でしたが、ネック(ナットの裏あたり)に大きなヒビが入ってしまいました。
 
ヘッドがもげてしまうのではないかと思えるほどの重症で、さすがの私も落ち込んでしまいましたが、ツアーはまだ4日残っていたため、そんな甘っちょろいことは言っていられません。右の写真の通り、ガムテープで強引に補修して、何とか残りの日程を乗り切ったのでした。

 もちろん、ツアーから帰ってすぐにリペアに出しました。
 文字通り苦楽を共にしたこのギター、帰ってきたらまたいっぱい弾いてやりたいです。


追記(2008-6-30): ご覧の通り、札幌の楽天舎で、ネックの折れを完璧に補修していただきました。
 目を凝らしてもわからないくらいに、見事に直っています。...もう倒しません!
 

追記(2010-1-14): ずっと持っているつもりでしたが、他のお気に入りのギターを集中して弾きたくなってきたので、2009年に手放しました。
 苦楽を共にしたギター、せめて次の持ち主のもとで弾きまくってもらえることを望みます。

 

 

(F−)185(1970年代前半?、シリアルナンバーなし)(現在無し)


表面板:スプルース単板
側板・背面板:ローズウッド単板
指板:エボニー
ネック:マホガニー

使用アルバム:「
歌ばっか
 

 2010年3月のソロツアー時、東京・御茶ノ水のギター店でジャンク品として購入。その経緯は「ライブ日記 2010・春の本州ツアー」に記しましたので、引用します。

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 特に買うつもりは無く、人生勉強のつもりでいろんなお店を回りましたが、一番最後に回ろうとしたお店の入り口に、ジャンク品3000円で売られているギターがありました。ヘッドのロゴは消されていました。しかし、何か雰囲気に威厳のようなものを感じたので、よくよく見ると内部に「made by yamaki」の文字が。かつての国産ギターの名器で、今は無きヤマキのモデルに違いありません。ピックアップの改造跡などがあり、美品とも言いづらいですが、弾いてみると弦高も低く(むしろ低すぎなのでサドルを高くしなければいけません)、ジャンクと呼ぶにはあまりにかわいそうでした。



 [写真:後に撮った内部写真。わかりにくいところに印字されています。]

 しかも、どうも音に迫力と艶があると思ったら、「185」のスタンプを見つけました。ネックブロックの梁型、寄木細工や貝の装飾、そして音から判断しても「(F-)185」(約30年前の当時で85000円の高級ギター)に間違いないと思います。これは、ハカランダ系を除けば、当時のヤマキの最高機種といっても過言ではありません。

 まさかこんな出会いがあろうとは。私は(お店の人がこのギターの正体に気づく前に)速攻で買ってしまいました。残念ながら調整する時間が無く、またツアー中の荷物にはできないので、ツアーが終わるころに小樽に送っていただく事にしました。

 「しょうがない、ハードケースくらいは買ってあげよう」と思って頼むと、なんとハードケースつきで3000円とのこと。もう開いた口がふさがらない状態でした(笑)。送料は2000円なので、計5000円也。素晴らしい買い物でした。

さらに、mixi日記には、ツアー後に到着したヤマキ185の状態レポートも書きましたので、再び引用します。

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今日、予定通りに3000円で購入したジャンク・ギター(実はヤマキのNo.185)が到着しました。
ハードケースがものすごく安いもので、取っ手も半分取れていましたが、そんなことはお構いなし。

可能な限り掃除しながらチェックしてみると、割れ止めはありませんが、やはりサイドバックはローズ単板のようです。ブリッジプレートまでローズウッドだったのには驚きました。ピックガードは最初から無く、剥がした跡も全く見えないのが不思議です。ヤマキ特有の白濁が無いのに、表面板の塗装がやや濃いように見えるので、少なくとも表面板は、再塗装したのではないかと思います。

ヘッドロゴがなく、付き板を削り取ったらしいこともわかりました。ほぼ同時代のギターと思われるR-60との比較では、ヘッドが2ミリ程度薄くなっています。表面板のブレイシングが少し割れているらしく、なんと新聞紙を貼り付けてごまかしていたようです(もちろん邪魔なので剥がしました)。さらに、裏板が一部ミシミシいっています。

とまあ、さすがに完璧な状態でもないのですが、目立つ板の割れは皆無で、フレットもそれほど減っていません。ネックは逆反り気味で、ロッドを完全に緩めても、まだ弦高が低い。
ナットやサドルの調整がきちんとできれば、まだまだ使えると思います。

そして、肝心の音は...スゴイです!
応急処置でサドルを高めにして、弦を張り替えて音を出すと、R-60を凌駕した、パワフル且つギュンギュンと唸る音を出してくれます。購入時に店頭で弾いたときとは明らかに違います。ギターとして普通の状態にするだけで、ここまでスゴイ音が出るとは。[以下略]
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 そんなわけで、信頼できるお店に出来る限りリペアしていただきました。


 さすがにジャンク品として売られていたギターなだけあって、(私には一部しかわかりませんでしたが)どうやら内部の力木その他が折れたり割れたりボロボロだったらしく、可能な限りいろんなところを修理していただきました。その結果、見違えるような素晴らしい姿で帰ってきました!
 予想通り、ライトゲージでもギュンギュンと唸るパワフル且つ煌びやかな音です。


 次にご紹介するウォッシュバーンD-62SWよりは、ヤマキR-60系の明るい音に近いですが、それよりも響きに品があり、枯れて乾いた味わいが加わっています。また、弾きやすく、タッチの変化も敏感に捉えてくれます。修理したブレイシングなどが本来のように鳴ってくるまで、いま少し時間はかかると思いますが、このままでもかなりいけています。

追記(2012-7-3) NEW!! ジャンク品から再生した愛着のあるギターで、ライブを中心に弾きましたが、ギターの本数が相変わらず多く...、また減らす必要があったため、2012年春に他の方にお譲りしました。もうジャンク品にならずに、次の持ち主にいっぱい弾かれることを望みます。

 

 

Washburn D-62SW (1978年?、#780531)(現在無し)


表面板:スプルース単板
側板・背面板:ローズウッド単板
指板・ブリッジ:ローズウッド
ネック:マホガニー
ピックガード:ローズウッド

使用アルバム:「
Echoes From Otarunay Vol.2」「歌ばっか
 
2010年4月、性懲りもなくギターを落札してしまいました。
 
...といってもこのギター、一部のギターマニア以外は全く知らないギターかもしれません。アメリカの大手・Washburnのギターではあるものの、実は私の大好きなヤマキ製OEM(相手先ブランド品)なのでした。この関係は、一時期アイルランドのローデンにOEMしていた国産メーカー、Sヤイリと同じようなものです。
 
背板のブレイシングには、「George Washburn」のロゴと「Prairie Song」というシリーズ名が刻印されていますが、ヘッド裏に「MADE IN JAPAN」のシールが貼られています。
 
以前から、ヤマキの「Woodcraft Series」(オール単板で個性的なデザイン)をカタログで見てはため息をつく日々を過ごしておりましたから、それとほとんど同じ仕様を持つこのギターが、ヤフオクで良心的な価格で出品されていたのを、どうしても見逃すことはできませんでした。
 
もちろん到着してからガンガン弾きまくり、思い描いていた通りの暖かい響きに感激しました。
噂にたがわず、国産ギターの名器の名に恥じない優れたギターです。
 
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これまた激鳴りのR-60(1974〜75年製?)と、ちょっと弾き比べてみました。
すると、同じメーカーが作ったとは思えないくらい、いろんな意味で二台の個性が分かれました。
 
D-62SW は、何といってもまず作りが完成されています。
木目の細かい材、ローズウッドの塗りこみピックガード、メイプル・バインディング、ネックの握りから仕上げに至るまで、実に良くできているギターです。この作りの美しさは、今まで持ってきたギターで言えば、タマ製のギターを彷彿とさせます。
 
音は、R-60の少々荒っぽい激鳴りと違い、ダークで、しかし中音域の密度がより充実した、ギター本来の伸びやかな響きです。ひょっとしたらシダー・トップのイメージも少し持っているかもしれません。
 
R-60は、私が再三言うように激鳴りで、それだけ見るとD-62SWにも勝っているのですが、前述の音の密度が不思議にスコンと抜けています。
良くも悪くもギブソンの要素を持つ荒い鳴り方です。作りはしっかりしていますが、どこかおおらかで、特に塗装はもう少し改善の余地ありというところです。
 
 
ともあれ、この新しいワッシュバーン、さっそくライブや録音で使っています。
 

追記(2012-4-20) 上に記している通り、素晴らしいパフォーマンスを発揮するギターでした。しかし、結婚生活を直前に控えてギターの本数を減らす必要があったため、2011年冬に他の方にお譲りしました。

 

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