浜田隆史詩集
 生と生 Life & Life (2005−)
(2006.11.10更新)

 

  生きるだけ

この雨の日に
最低条件として生きている
またテレビと共に呼吸して
目の奥が萎えている
生きていてほしかったのに
死んでしまった人のことを
考えていたら
雨音が強くなってきた
カセットはまだあるよ
まだあると思う
この前見つけた

ずいぶん前のことなのに
涙は隠したはずなのに
なんでもないことで
みんなにもいずれあることなのに
生きていてほしかったのに
死んでしまった人のことを
考えていて
私はふと行き詰まってしまった
心がそれ以上
前に進まなくなった
水滴も出なくなった
カセットはあるよ
私はそれをイジェクトして
大事にしまった

生きているさ
それが大事なこと
当たり前

でも懐は空っぽだ
目が枯れた
吐きたくなるように辛い
ひざが痛い
迷惑メールとバカな芸能に囲まれて
心が平べったくなった
額の汗がこんな私を説き伏せて
ここから出ようとせき立てた
死んでしまった人がせめて喜ぶように
何かしようと促した
ふと思い立つと
胸にボタンがあり
私がそれを押すと
くたびれた心臓が出てきた

昔懐かしいカセットを
私は代わりに胸に押し込んで
心で再生した
楽しかった日々を思い出した
また泣いた
ただの水滴は涙に変わり
心が少し潤った
あの時一生分泣いたんだよ
死ぬほど祈ったんだよ
ボクは生まれ変わったんだよ
そう思っていたのに
涙はいつも思い出したように流れ
涸れることがなく
私はくよくよしたおかげで救われ
カセットはしばらくして止まった
イジェクトした
またテレビを見た

何にも出来ない
金もない
人望もない
車も動かせない
私はただ生きるだけ
生き残った人たちのそばにいるだけ
とりあえず
それでいいよね
私の望み
私の心臓よ
(2005・10・30)

 

  ドライブ

車がないので
乗り継ぎの人生である
車の人は
ドライブの人生である
かといって私は
走っていないわけではない
便乗させてもらおう
死ぬ確率が上がることよりも
世界がよく見える利点の方を取ろう

みんなドライブしている
波乗りしているから
わからないことは教えてね
知らないのなら言って下さい
助け合って乗り越えた丘は
下りでは青い風を呼び
雪を吹き飛ばしてくれるだろう

人付き合いが煩わしいのは
一人でそう考えるからで
一緒に走れば
違うカムイがやってくる
違う食べ物が私を養う
違う知識が私を教える
違う心が私に考えさせる
違う音楽が私を生かしていく
違う景色が私を動かしていく
一人ではなれなかった生き物になれる

時が過ぎて
私はいつか一人に戻り
また走るのを煩わしく思うのだが
青い風はいつでも吹くだろう
あなたたちと
険しい丘がある限り
(2005・11・26)

 

  音波

 耳が二つなんて誰が決めたんだろう?
 バランスが悪いのかな?

少し片耳が悪くなり
ずれた音の層を聴いていると
普段の音波には雰囲気があり
今の気持ちは沈んでいくのが
よくわかるのです

私は四方八方から
体中から
無数のステレオを聴き
世界を包む空気の層は
ずれないように注意深くなっていて
こちらの様子を窺っています
生きた音は四次元で
死んだ音が平面から出てくるのです

私は波です
生きています
減衰します
多くの音を聞き逃しています
耳を澄ましても
出てくる音はテレビから
生きている音は
心の中でだけ鳴っています

そして共振という現象があります
つまりもらい泣きです
これは音源の近くに行かないと起きません
ケータイはマナーモードなので
不可です

私たちは
生きているのに
いかに多くの音を
いかに多くの心を
取り逃がしているのでしょう
私たちは波です
減衰しながら
少し飽き飽きしながら
次の嵐を待っています

さあ
音に反応して下さい
生きていると私に言って下さい

カモメのように
(2006・1・25)

 

  カラスの春

 私はカラス
 枝は軽いよ
 なぜそうするのか
 わからないけど

 私もカラス
 仕事が遅いと
 亭主をつついたよ
 まったくね

 私は一人
 でも心が晴れたら
 天気だって良くなるよ
 なぜそう思うのか
 わからないけど
 
 ふいふい
 春らしくない冷たい風が吹く
 その元を見てみると
 中途半端な雲がモクモクしている

 おいおい これじゃ
 誰にも言えないじゃないか
 私の心

 つついては 飛んでいく
 巣作りカラスたちと私
 車の行き交う音が聞こえている
 ほこりっぽい小樽
(2006・4・21)

 

  カラスの心

 私たちは二人
 見下ろしていた人間を
 少しばかり
 見くびっていました
 
 私は一人
 青い人が棒で巣を落とし
 その時
 強い風が吹きました

 青い人が猿に見えました

 私たちの心は
 この木のまわりを回って
 落ちました
(2006・5・23)

 

  死と生

 私は一人
 目覚めた朝のうるわしさ
 今日も世界は無事だった

 凍えずに寝られた
 水道から水が出た
 トイレで用を足せた
 テレビがついた
 コーヒーを沸かした
 コンビニで買った
 パンがまだあった

 太陽の光に気がついた
 こめかみが痛くなるほどに

 またあの木を見た
 彼らは二人
 死んだ子供の幻影を追って
 運河の淵に舞い降りた
 聞いたこともない
 震えた声でわめくのを
 観光客はただやかましく思った

 季節外れに寒かった
 太陽が沈んだ

 私は生きている
 まだ今のところ無事だ
(2006・5・27)

 

  死を脅かす生 NEW!!

 私は一人
 でも心は二人分、三人分
 幾人もの心をいただいて
 恐れ縮まりました

 遠くの人
 近くの人
 心の中では同じ距離で
 良心の元で対話しています
 軽い気持ちです
 でもいいでしょう

 心の中は見えません
 貴方も私も見えません
 でもその感触は
 一緒に旅をして
 お互いで見つけてきました
 決して大きな森の中でなく
 わりと小さな当たり前の街角で

 私は一人
 でも心は大勢になれるのです
 死を脅かすほどの
 生きた心臓を
 飛び出すような衝動を
 枯れない涙を
 多くの心からいただけるのです

 私は生きます!
 貴方も生きています!
 改めて 軽い気持ちで
 祝ったのです

 私は凍える雨の中
 貴方の心の幸せを
 遠くから祈っています
 恐れ縮こまりながら
 申しました

 Happy Wishes
(2006・11・10)

 

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